同じ「失意の辞任」をした首相経験者だからこそわかること
2012年の衆院選で民主党が大敗し、野田氏は安倍氏に政権を引き継ぐことになった。皇居での親任式の控室で安倍氏と2人きりになった時、安倍氏が野田氏に「自分は5年で(首相に)返り咲きました。あなたにも、いずれそういう日がやってきますよ」と励ました。
近くにある者に優しい安倍氏の一面をよく表した秘話だったが、それ以上に心に残ったのは、直後に語られた野田氏の述懐である。
「今なら分かる気がします。安倍さんのあの時の優しさが、どこから注ぎ込まれてきたのかを。第1次政権の終わり(2007年9月)に、失意の中であなたは、入院先の慶應病院から、傷ついた心と体にまさに鞭打って、(後任の)福田康夫新総理の親任式に駆け付けました。(中略)あなたもまた、絶望に沈む心で、控室での苦しい待ち時間を過ごした経験があったのですね」
首相という立場、そして失意の辞任。同じ経験をした者同士だからこそ、政治的立場が大きく異なっていても、相手の立場や思いに想像力を持つことができる。
とつとつと語る野田氏の言葉に、そんな感慨を抱いた。
政治スタンスの異なる人でも共感できる言葉を紡ぐことができる
野田氏が言葉で共感を呼ぶことができた相手は、自民党だけではない。2020年の東京都知事選。野田氏は東京・銀座で、立憲民主党が支援する宇都宮健児氏の応援に駆けつけた。
共産党や社民党にも支援された宇都宮氏。支持者には消費減税に強いこだわりを持つ人も多く、彼らにとって3党合意を結んだ野田氏は「天敵」といった空気もあった。
そんな野田氏を街頭演説に誘ったのは、共産党の志位和夫委員長だった。自らの応援が逆効果になるのでは、と躊躇した野田氏は、演説で「違和感を持って見ている人もいっぱいいるんではないかと思います」と率直な気持ちを吐露しつつ「『右バッター』として最後まで宇都宮さんを応援する」と訴え、大きな拍手を浴びた。
自民党から共産党まで、政治スタンスが全く異なる人たちが共感し、納得できる言葉を生み出し、状況を作り出せる。野田氏はそんな政治家だと思う。