40代以上のロシア人の多くはプーチンに投票し続けてきた

前述した通り、ソ連崩壊後の貧しく、混乱した時代を色濃く記憶している40代以降の人たちは、乱暴なやり方ではあっても、国内の秩序を取り戻したプーチンにある一定の信頼を置いている。弱い指導者が選ばれたら、カラチャイ・チェルケス共和国やチェチェン共和国などの小さな国々が集まっているロシア連邦が分裂したり、内戦のようなことが起こったりして、またあの貧しく混沌こんとんとした時代に逆戻りしてしまうかもしれないと恐れて、プーチンに投票し続けたのだろう。

そもそもプーチン以外に人気を得そうな候補が出ると逮捕されて出馬ができなくなったり、それ以前に選挙の不正も多数報告されている。今のロシアの30代半ばくらいまでの人が投票権を得たころには、プーチンの独裁体制は出来上がっていたと言える。

「兵役義務があるのに、ロシアのために戦わないのか?」

ロシアは役割が多い国だ。男はこういう役割、女はこういう役割と、ハッキリと分かれている。だからこそ、特に僕のようなゲイなど少数派の声はかき消されてしまうし、いまだに多様性は認められていない。ロシアではその役割を果たさない人には厳しいし、半面、ルールさえ守っていれば、その他のことには寛容だとも言える。ロシアの男性には兵役義務が課せられ、それが国民としての役割の一つでもある。だから、ロシアのために戦わない僕のような者には、侵攻が始まる以前から厳しい視線も投げかけられる。

また、ロシアは食料自給率が高く、エネルギー資源もあるため、ジリジリと制裁の影響は受けていくだろうが、自国の経済圏だけでもある程度の長い期間をやっていける国でもある。若い人たちのなかには売り払った人もいるが、ダーチャ(家庭菜園付きの別荘)の畑で食料を育てる文化も残っている。自宅で作った瓶詰をたくさん地下室で保存している家庭もまだ多く、プーチンはそうした背景を利用して、太平洋戦争時の日本のように「欲しがりません、勝つまでは」と持久戦に持ち込むつもりなのかもしれない。