見ることができない月9のひそかな名作
まずは、もう一度じっくり見たいと思う月9作品をあげておく。
DVD化されていない作品や、現段階でFOD(フジテレビオンデマンド)にもその他のサブスクにもあがっていない作品が中心だ。
最初にあげておきたいのは『リップスティック』(1999年)。
主演は三上博史。舞台は少年鑑別所、不良少女(広末涼子)の再生の物語だが、いろいろと衝撃的な内容で、月9史上最も不穏な問題作とされた記憶がある。DVD化されていないので、余計に見たい。
そして『ランチの女王』(2002年)。
故竹内結子が主演のドラマで、元不良の女性が洋食屋の4兄弟(堤真一・江口洋介・妻夫木聡・山下智久)と親交を深め、過去と決別する物語。竹内のさっぱりした元ヤンっぷり、内に秘めた強い意志は新しいヒロイン像と感じたし、竹内の元カレを演じた森田剛も強烈な印象を残した。
また、『流れ星』(2010年)も異色作だった。
主人公の竹野内豊が病気の妹を救うために、借金を抱えた風俗嬢の上戸彩に偽装結婚&臓器提供をもちかける。はすっぱな上戸には強烈なクズ兄(稲垣吾郎)がいて不幸の元凶に。恋愛ドラマに分類されにくい作品だったが、純粋な善意の行方について考えさせられた。
最後は、裏稼業の人々を描いた『極悪がんぼ』(2014年)。
尾野真千子主演、クズ彼(三浦翔平)に借金を背負わされ、謎のコンサル会社で悪事に加担させられる女の物語。社長役の小林薫のほか、椎名桔平、三浦友和、竹内力が裏社会で暗躍する人々をリアルに演じていた。
過去に配信していた作品もあるけれど、もう一度ねっとり見たいので、FODその他のサブスクでぜひ配信をお願いしたく。
やっと本題、月9主演俳優マイベスト3
ここまで引っ張っといてなんだが、今回のお題は「月9主演俳優ベスト3」。これは作品ベスト3と言い換えてもいい。主演もよかったが、サブキャラクターも秀逸で、この座組をずっと見ていたいと思わせる作品でもある。
第3位 差別やマウントをしない、おしゃべりな菅田将暉
ついこの前やっていた『ミステリと言う勿れ』(2022年)である。
原作漫画のイメージとちょっと異なるタイプの顔立ちだったが、私の中では久能整というキャラクターにぴたっとハマった。無理をして人に合わせたり、媚びたりしない。かといって傲慢ではない。老若男女、誰に対してもフラットかつ丁寧に接し、差別やマウントはしないし、正義をふりかざしたりもしない。とにかく、ようしゃべる。しゃべるけれども、内容は不快ではなく、むしろ深い。友達も恋人もいないが、充実した学生生活を送っている。令和を象徴する男性像として、新鮮だった。
ドラマに恋愛不要と思う人にとって、こんなに心地よいキャラクターがいただろうか。世の中を「モテ・非モテ」に分断してきた恋愛至上主義にとって代わる画期的な作品の中で、菅田は見事なアイコンになったと思う。続編を待つ。
第2位 東京に抗い、飲み込まれ、踏ん張る地方出身の若者 有村架純・高良健吾
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)のW主演のふたりである。
北海道で養父母に育てられた音(有村)と福島で祖父に育てられた練(高良)。幼いときに親を亡くした共通点もあり、日常の感覚がシンクロするふたりの、順風満帆ではない恋模様を描いた作品だ。芯の強さと他者への配慮と純朴さにあふれるふたりが、東京で暮らすことによって、変化と不変の両極を見せる。
ふたりのおぼこさを際立たせたのは、脇を固めたキャラクター(高畑充希・森川葵・坂口健太郎・西島隆弘・高橋一生)だ。それぞれにも屈折した過去や生い立ちがあり、嘘をついたり、斜に構えたり、マウントしたりで精一杯の虚勢を張る姿に胸がしめつけられた。平成最後の清貧格差残酷物語という一面もあり、他の恋愛ドラマにはない独特のトーンがあったと思っている。