浅草のサンダル問屋

三浦 たとえば、僕らは今日、どこでこの対談を収録しているかというと、浅草のサンダル問屋です(笑)。そこが今、シェアオフィスになっている。去年の2月に『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』という本を出しました。カバーはここで撮影しています。その1年前に、シェアハウス専門のネット上の不動産屋さん「ひつじ不動産」が、東京でシェアハウスで暮らすということは、こんなに楽しいのだという本『東京シェア生活』を出していたんです。僕も「所有しないでシェアする」という価値観が出てきていること自体は、10年ぐらい前から気づいていて、研究もしていたのですけれども。まだ「本にして世に説くには早いな、これは黙殺されるだろう」「こんなことを言っていると、本業のマーケティングの仕事に差し支えるな」とか思いまして(笑)、自発的に塩漬けにしていたんです。

三浦 ところが、『東京シェア生活』が2年前に出た。「あれっ、知らない間にこんなことになっていたのか」と。私もシェアハウスというのは、貧乏な若者やデイパッカーが、汚い家に住んでっていう、そういうイメージだったのが、もっと都会的な、洗練されたシェアハウスが出てきているという。普通のOLも住んでいると。これは念願のシェアというテーマを本にできるなと、その時代がついに来たなと思って、今日も来ているNHKの編集者さんと、もともと次のトレンドを読む本を作ろうという計画があったので、トレンドを探す本じゃなくて、シェアで1本でいこうということで、1年かけて作ったんです。

 その過程で編集者が、ツイッターをやれとかそそのかした。やり始めたら、フォロワーに建築系の人が多かったんですよ。隈研吾さんと対談したり、坂口恭平くんの本を書評したりする機会も多かったので。シェアハウスの人も多かったんです。そのうちに、オフィスの間借りを始めた人がいるというので、なんだそりゃと取材に行ったのが、ここを運営している今村ひろゆきくんなんです。ツイッターによって、シェアというキーワードによって、ひじょうに気持ちのいい仲間が増えていって、それでこういう本も作れたんです。この空間は、間借りというテーマでなにか始めた今村くんを取材に来たその場所でして、元はサンダル問屋なんです。

隈研吾(隈研吾建築都市設計事務所)
http://kkaa.co.jp/
空家再生!元サンダル屋のシェアオフィス
http://ma-ga-ri.com/magari/011_lwpasakusa/

 なるほど。そういう場所だったんですね。ここ、通常の家より高さがありますよね。

三浦 元は店舗ですからね。向かいにも格好良い店がありますし、3軒ぐらい隣にはアールデコ調の店があります。

 このあたりは、細かく調べると古い、いい建物、ありますよね。

三浦 あります。浅草っていうと江戸情緒というイメージがあるけれど、実は大正時代が最盛期ですから、モダンなんですよね。だから、とんかつ屋もいっぱいある。建物も、今見ると古いけれど、当時はモダンの最先端だったわけで。

 ああ、あの向かいの店の看板の文字なんか、まさにモダニズムですね。

三浦 僕は若いころは渋谷のパルコにいて、東京の西側がいいねというのが仕事だったんだけど。歳を取ったせいもあってか、最近はもっぱら下町のことばかり話しています(笑)。