大幅な「値下げ」を決断

あっという間に時間は過ぎ、新築マンションの引き渡しまで、3カ月に迫ってきた。まさか「売れない」という事態は想定していなかった荒木夫婦。焦りが出てきた。

売り出し価格は適正で、高すぎることはないようだが、背に腹は代えられない。

茂さんは、思い切って大幅に価格を下げることにした。また、新たな不動産業者3社と一般媒介契約を締結。計8社で売り出すことにした。

大幅な値下げがよかったのか、20代の新婚夫婦が内見に来て、満額価格で申し込みをしてくれた。ようやく決まるか……と、安堵する荒木夫婦。

人生を否定された気持ちに

ところが1週間後、まさに驚愕する事態になった。

不動産業者が、その後の様子を連絡してきた。購入してくれるものと期待した20代夫婦は「旧耐震基準のため、住宅ローン審査が下りなかったので、買いたいけど買えないんです……」と言っているという。

その後も何件か内見に来たが、あまりにたくさんの業者から物件情報が出ているため、「事故物件か何かですか?」と質問される始末。まるで自分たちの40年以上の幸せな生活をすべて否定されたかのような気持ちになった。

定年後に住宅ローンを背負う、想定外の事態に

新築マンションの引き渡しは、2カ月後に迫ってきた。もはや余裕はない。自宅マンションの売却を進めながら、購入物件の残金は「借りるしかない」と腹をくくり、住宅ローンの説明を聞きに金融機関を駆け巡る。

金融機関では、借り入れ時に66歳になる茂さんの年齢が引っかかることもあった。そもそも相談すら受けてくれない金融機関も多かった。

実は、まさか売れないとは思わず、茂さんは新築マンションの契約時に「住宅ローン特約」「買い替え特約」をつけていなかったのだ。このため、もし住宅ローンの審査が通らなければ、手付金500万円が“没収”になってしまう。「つなぎ融資」なども視野に入れ、ハラハラする日々が続いた。

そうこうしているうちに、ある大手金融機関で、「80歳の誕生日まで」に完済という条件で、14年間の固定金利、借入額2000万円で審査が通った。毎月の返済額は約13万円である。

「よかった」と安堵する間もなく、慌ただしく引き渡しを受けて、新居に引っ越し。文字通り綱渡りをする思いで、どうにか九死に一生を得た荒木夫婦だった。