「もう限界だ」
夫婦で話すと、お金の話ばかりになって喧嘩も絶えなくなってきた。
通信費を抑えるため、離れた場所に住んでいる子ども夫婦や孫にもなるべく連絡をしないように気をつけるようになった。すべての生活費を切り詰めているが、もう限界かもしれない。
旧居では、毎月の修繕積立金の値上げも検討されているという。なんとか旧居を買い取ってもらえないか、不動産業者と交渉中だ。
それでもダメな場合、旧居を賃貸に出すか、あるいは、旧居に出戻ることも検討しなければならない状況だ。これから新居の不動産取得税の納税通知書も届くと思うが、このままではとうてい払えないだろうと、荒木夫婦はため息をつくのだった。
ただ穏やかな老後を過ごしたかっただけなのに
いままでコツコツと人生頑張ってきた。「終の棲家」にするなら、古いより新しいマンションのほうがいいと考えた。
「でもこれなら、買い替えなどせず、思い出の詰まった古いマンションで穏やかに老いたほうが幸せだったのではないか……」と茂さんは言う。
人生の終焉に向けて、所有しているマンションとどう向き合うのが正解なのか。マンションにはいつまで住めるのか。維持費はいくらかかるのか。買い替えはどうすべきなのか。もっとよく勉強してから、行動すべきであった。
これからどうすべきか──と、茂さんは心底悩んでいる。