日本は前頭葉が欧米先進国より劣ってしまう社会構造

私が見るところ、日本という国は、そうでなくても、前頭葉の機能が欧米先進国より劣ってしまう社会構造になっている。海外の高等教育では、これまで初等中等教育で学んできたことを疑ったり、教授の言うことを素直に聞かずに議論したりするようなことを行うが、日本では、教授の言ったことをノートに記し、その通りにテストで書くような学生が優やAをとる。そしてその数が就職に直結する。

和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)
和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)

このように習った通りのことを再現するようなことが高等教育まで続くと、前頭葉は鍛えづらい。社会に出ても、上司の与えた仕事を素直にこなし、言われたとおりのことをやる人間や、前例踏襲がうまくできる人間が出世する。これも前頭葉機能が成長しないパターンだ。

こうした状況を見た上での私の考えはこうだ。日本人の多くの前頭葉機能は、欧米の高等教育を受け欧米流の職場で働いてきた人たちより劣るだけでなく、40代以降は、脳の前頭葉の部分が委縮しやすいのではないか――。

日本人は、平均年齢も中位年齢も49歳近くになっている。すると人口の6割くらいが40代以降に前頭葉の委縮が目立ち始めるということになる。

こういう人たちの多くは、無自覚に前例踏襲思考に走る。

前例踏襲とは、例えば「自民党の政策は不愉快だが、ほかの政党に任せると余計悪くなりかねないから」と消去法的に自民党に投票するとか、これだけ高齢者が多いのに日本発の新産業が生まれないとか、あるいは30年もまったく経済成長がないのに、バカの一つ覚えのように金融緩和と財政出動しか行わない……。私には、これらすべて日本人全体の前頭葉機能の老化のなせるわざだと思えてしかたない。

前頭葉機能を維持できれば、高齢になってもクリエイティブで、意欲的で、新たな環境に適応しやすい。逆に前頭葉機能が衰えた人は、高学歴であったり、知的機能が高かった人でも、昔からの考え方が変えられなかったり、意欲が衰えたり、あるいは感情のコントロールが悪いために事件を起こしたりという形で、「バカ」になっていく。

だから、超高齢社会や長寿社会を乗り切るために、自分で前頭葉を鍛えていくしかないと私は考えている。私の仮説ではあるが、前頭葉を鍛える方法はなくはない。重要なのは意識して前頭葉を使うことだ。