「絶対菜食主義」でも肝臓に転移

ジョブズは、新鮮なニンジンと果物のジュースを大量にとる絶対菜食主義を貫きました。

それにはりやハーブ薬なども併用して実践し、ほかにもインターネットで見つけた療法や心霊治療の専門家など他人からすすめられた療法も試しました。

これらの療法の実践は、すい臓がんと診断されてから9カ月間続きました。

2004年7月の金曜日、新しく撮ったCTスキャンの画像には大きくなったがんが写っていました。

広がった可能性もあり、ついにジョブズは、現実と向き合うしかなくなりました。

そして手術の結果、肝臓に3カ所の転移が見つかったのです。

がんが発見された直後、つまり9カ月早く手術していたら広がる前だったかもしれません。

もちろん、誰にも確実なことはいえませんが、多くの人は、この遅れが致命的な結果につながったとみています。

ヒトの内臓
写真=iStock.com/magicmine
すい臓がんの発見時に手術していれば助かったかもしれない(※写真はイメージです)

ジョブズの後悔

ジョブズは取材したアイザックソンにこう告げました。

「体を開けていじられるのが嫌で、ほかに方法がないかやってみたんだ」

そのように当時を回想するジョブズの声には悔やむような響きが感じられたと、アイザックソンは述べています。

2008年になるころ、がんが広がりつつあることが明らかになりました。

それが一般にも知れわたるようになり、その懸念からアップルの株価が下がりはじめました。

肝臓移植手術もしましたが、内臓を囲んでいる腹膜に斑点が認められました。がんの進行は思ったよりも速かったのです。

2010年11月に体調が下り坂となり、痛みがひどくて食事ができなくなりました。

翌年1月には3度目の病気療養休暇をとることになり、7月には骨など体のアチコチにがんが転移し、もはや分子標的治療でも適切な薬を見つけられなくなったのです。