ワンルームの自宅に一人きり…回復に最適な場所を得られない人たち

メンタルヘルス不調で休職する社員の中には、一人暮らしの社員もいます。

一人暮らしのワンルームに一日中ひとりでいても、気分転換にはなりません。そこで、休職社員に主治医が許可してくれたら実家に一時的に帰ることを提案することが多くあります。そうするとたまに、「うちの親はメンタル疾患への理解がないので、話せないし帰れない」という声や、「実家に帰ってきてもいいが、近所の精神科には行ってくれるな(噂が広がるから)」と言われた人、帰省し親にカミングアウトしたら薬を全部捨てられてしまった人、もいました。

このような人たちは、結局、仕事を休んでも、自分のワンルームマンション、つまり在宅勤務場所と同じ空間にいるしかなく、そのことは病気の回復に必ずしも最適ではない状態です。しかし、他に行くところもなく、どうしようもありません。

安全基地は複数あった方が良い

心理学の中で、安全基地という言葉があります。

アメリカ合衆国の心理学者であるメアリー・エインスワースが1982年に提唱した人間の愛着行動に関する概念で、子供にとっての愛着対象(多くは親)が、幼い子供に提供する心地よさや安心感が保証された環境を意味します。子供は、親との信頼関係によって育まれる“心の安全基地”の存在によって外の世界をより探索でき、成長する。だから健やかな成長のためには、戻ってきたときには喜んで迎えられると確信できる安全基地が必要であるという意味と私は理解しています。

私はこの概念は、“心のよりどころ”という言葉で働く大人にも当てはまるのではないかと考えます。緊張やストレスを感じる職場で働いている人には、心のよりどころとなる場所があった方が、会社にいる間は頑張ることができる、多少の嫌なことや辛いこともチャレンジできる。それは、自分の安全基地(多くは家)に帰ればまたエネルギーを充電して元気になることができることを知っているから、と考えます。

「Safe Space」と書かれた標識
写真=iStock.com/MCCAIG
※写真はイメージです

大人にとっての安全基地は、必ずしも1つであるとは限りません。自分が休める場所、元気になれる場所ですから、家の他に落ち着ける場所でもいいですし、家族やパートナー、友人などの人間関係にこの安心安全なよりどころを求めてもいいと思います。お気に入りのカフェや趣味の仲間など、複数あっていいのです。こういった安全基地を複数持っている方が、何かの時の相談相手も多くいるわけですからいいと思います。