自分の状況を誰かに伝えている人は重症化しにくい

Aさんの話を聞いて以降、私は面談する社員には、それぞれの医療の状況(内服中であることや休職を要することなど)を誰かに伝えているかを必ず確認するようになりました。当然、伝えている社員の方が、軽症の割合は多く、また、重症化しにくい印象です。

体の病気の場合は、同居人や親に言えない人はほとんどいませんが、メンタル不調であることやそのため休職が必要なことは言えない面談者は時にいます。そして驚くことに、伝えたものの、家族に治療に協力してもらえない人たちもいるのです。

向かい合って話す二人
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掃除や家事をダメ出しされ家で療養できないBさん

コロナ前に面談していたBさんは、30代前半の外資系企業の営業職でした。その4年前に日系企業からヘッドハンティングされ転職してきており、現在2児の父親で、奥様は専業主婦、有名新築タワーマンションに暮らしており、世間から見れば、誰もが羨む成功者でした。

Bさんは結果を出し、昇進しました。が、その後、会社から求められる成果を出せず、上司に厳しい言葉をかけられるようになりました。そして、クビになったら今の生活を続けられないのではないかと過度に不安になり、休職を要するメンタル不調になってしまいました。私が初めて彼と面談したのは、会社に休職の診断書を提出してからでした。診断書が出るまで、誰にも相談できなかったようです。

奥様は休職してほぼ寝たきりのBさんには優しくしてくれていたそうです。しかし、ある程度元気になったBさんが、気分転換のため日中に散歩や自転車で外出しようとすると、奥様から、近所の目があるから昼間から外出しないでほしいと言われてしまったそうです。そして、外出する元気があるならば、働いていないのだから家事を手伝うようにと言われ、毎日奥様の指示通り掃除や洗濯等を行い、不慣れなため上手にできないときは容赦なくダメ出しをされ、会社と同じ状況ですと自虐的に言ったのが印象的でした。

Bさんの病気の回復のためには、家の中での家事手伝いだけでなく、気分転換や体力回復のために外出して趣味を見つけることが心身ともに必要なことはBさん自身もよく理解していましたが、奥様の意に反することはできないと、奥様には相談することもできないようでした。