メンタル休職しているのに家で心を休められない大人たち
こんにちは。産業医の武神です。私は、病気で休職しているクライアントの社員と月に1回電話やZoomで産業医面談をしています。このやり方は、より正しい自宅療養をサポートすることや、的確な復職へのタイミングの判断、復職後の再休職リスクを減らすことに有効だと10年以上の経験から断言できます。
多くのメンタル(ヘルス不調による)休職者はストレスの原因となっていた会社から距離を置くだけで、時間とともにある程度軽快していきます。その後、復職後に再発しないように同じ職場でどのように働くかなどについて、ふりかえりやコーピングを行って復職準備を一緒に進めます。そうすることで、よりスムーズな復職や再休職防止につながります。
休職者との産業医面談では、日常生活について聞くことが多く、社員のプライベートについて深く知ることがあります。そのような中で、これではなかなか回復は難しいだろうと、産業医の私が感じてしまうことがあります。
今日はその中の1つ、メンタル休職しているのに、家で心を休められない大人たちについて、お話ししたいと思います。
休職していることを妻に話せないAさん
10年以上前に私が産業医として駆け出しの頃に面談していたのは、休職中の50代男性社員Aさんでした。人事担当者が言うには、その3年ほど前にも2年間ほど休職し、復職後半年たったらすぐ再休職し現在に至り、まるで就業規則を把握してやっているようだが、働いている時も見るからに調子は悪そうだったとのことでした。
産業医面談を定期的にするようになり、彼は妻と二人暮らしで子供やペットはいないことがわかりました。日中の過ごし方を聞くと、歯切れの悪い言葉が返ってくることが多く、何か隠している感じがしましたが、本人が話したくなるまで深くは突っ込まないでいました。が、ある時、彼が「先生、実は……」と話しはじめました。
実はAさんは、奥様には前回も今回も休職していることは一切話しておらず、平日は毎朝夫婦揃って家を出て、乗り換えの駅で別れると家に帰り、17時頃にまた家を出て時間を潰し、奥様が帰宅する頃に仕事が終わった顔をして帰宅しているとのことでした。3年前病気を発症した時に、心療内科を受診したことを奥様に言ったところ、気の迷いだ、怠けてしまうから休んだらダメだ等々、強く言われ、その後、自分の状態を全く言えなくなってしまっているとのことでした。
平日、どうしても具合が悪く出社のふりを休もうとすると、叱咤激励や罵声を浴び、休職中も復職時も、心身ともに本当に休めたことはないとのことでした。休日は平日の仕事疲れということで、ほとんど布団の中で過ごしているとのことでしたが、平日は毎日どんなにしんどい時も、朝と夕方は働いているふりをしているため、そのこと自体がストレス原因となり、なかなか病気が改善しないのは明確でした。