生徒にとっての環境は学校だけではない

生徒たちの評判がよくて偏差値も手頃な学校は人気が高いですから、入りたい人全員が入れるとは限りません。みなさんの中にもあこがれの志望校に合格できず、将来が真っ暗になったと思っている方がいることでしょう。

安藤寿康『生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SB新書)
安藤寿康『生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SB新書)

しかし、その学校に入れないことで「人生終わり」にはなりません。総じて、日本の社会は学校教育に多くを期待し、学校も自らにすべてを抱え込みすぎる傾向があるようです。生徒の学業成績を向上させ、運動能力を向上させ、多様な文化的素養を育み、規律を身につけさせる……。そのすべてを社会が学校に担わせるのも、また学校が自ら担おうとするのも無理があります。

生徒にとっての環境とは学校だけではありません。人間が生きる社会は、世界は、学校を超えてとてつもなく広いのです。学校という環境だけが遺伝的素質と相互作用するわけではありません。幸いにしていまの時代は、学校以外にも、インターネットやテレビなどのメディアを通じてさまざまな環境にアクセスできるようになっています。YouTubeにはかつて目にすることのできなかったさまざまな動画が無料でアップされていて、その気になれば学校が与えてくれるよりはるかに詳しく知識を得ることができます。

それだけでなく学校外で教育に関心を持つ企業や行政機関が、さまざまな学習機会を作っており、その中には無料でアクセスできるものもあります。そのつもりで自治体の広報や新聞広告を見てみてください。それを手がかりにして、実際にリアルな世界とつながるきっかけを作ることも可能です。

本人にとって居心地のいい環境が、学習の機会を高めてくれる

素質を伸ばすチャンスというのは、学校以外にもたくさん転がっていますから、親の心配には及びません。

もし親の立場にいる人がやるべきことがあるとしたら、子どもがつながるそうしたバーチャルな環境によって、犯罪や薬物乱用や詐欺、不健全な出会い系サイトなどに結びつくような誘いに乗せられたり、「賢い」子どもが自らそれに加担するようになることなどに引きずり込まれないよう、ちゃんと見守ってあげることでしょう。

子どもがよい学校に入ることができればよい会社にも入れて……などと親が期待した通りには、往々にしてならないものです。その親心自体は、自分の遺伝子を受け継いだ子どもの生存と繁殖の確率をより高くしたいという生物学的欲求に根ざすものですから、あって当然ですが、その無償の愛の中に親の欲目が入り込みがちなのがくせものです。

子ども本人の遺伝的素質にとって居心地のいい環境なら、それこそが学習の機会を高めてくれるはずです。その結果、気の合う友達も作りやすくなるし、大人になってからもいい思い出として振り返ることができるでしょう。そんな風に、少しゆとりを持っておうように構えていた方が、親にとっても子どもにとってもメリットが大きいのではないでしょうか。

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