男性に「男らしさから降りてもいい」というだけでは解決しない

――男性はどうすれば、「男らしさ」の呪縛から解放されて生きやすくなるのでしょうか。

まず、男性自身が「男らしさ」の呪縛から抜け出す必要があります。そのためにとても重要なことを2つに絞って紹介したいと思います。承認欲求の基準を下げることと、アイデンティティーの複数性を受け入れることです。

相手や集団内で評価されたいという欲求は日々働き、生きていくモチベーションともなる要素ですが、承認欲求の基準を高く設定し、それを満たすことにこだわり過ぎると、満たされない場合に自己嫌悪、自己否定に陥るリスクが高い。承認欲求を抑えて、相手に多くを期待しないことで、自己効力感も高めやすくなります。他者や社会からの評価に惑わされず、自分のものさしで自己評価し、少しずつでも自信をつけていくことが重要です。」

それから、旧来の「男らしさ」のすべての規範の実現を目標にするのではなく、強い自分もいれば弱い自分もいるというアイデンティティーの複数性を受け入れることも、「男らしさ」からの解放につながるのではないでしょうか。

ただし、男性が「男らしさ」から降りるだけでは解決できません。男性のカウンターパートとなる女性、さらに社会が、本音の部分で、「男らしさ」を求め続けている状態では、男性はそうした女性や社会からの要請に応えることができず、“落伍者”の烙印らくいんを押されることが怖くて、「男らしさ」を降りられませんから。また「男らしさ」を実現できているごく一部の男性が、そうでない多数派の男性をさげすむ風潮を改めることも、男性の生きづらさを軽減するには不可欠です。

ジェンダー平等が叫ばれて久しく、少しずつ前進してきていると言われていますが、真の意味での達成はまだまだだなと強く感じています。

いまだに「男は男らしく」「女は女らしく」という意識が強い

――女性や社会が男性に「男らしさ」を求める風潮は強いのでしょうか

男女ともに「男らしさ」や「女らしさ」を求める風潮は、いまだに変わっていません。内閣府の2021年度「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」(全国の20~60歳代男女計1万330人対象)の調査結果でも、男女ともに「男らしさ」や「女らしさ」にこだわっていることがわかっています。

性別割合に対する考え
出所=『男が心配

性別役割に対する考えについて、家庭や職場などシーン別ほかの36項目の質問に対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらかと言えばそう思わない」「そう思わない」の4つの中から1つを選んでもらった同調査では、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」を合わせた回答が多かった上位2項目は、「女性には女性らしい感性があるものだ」(男性51.6%、女性47.7%)「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」(男性50.3%、女性47.1%)と男女ともに5割前後の高い割合を占めています。