「生きづらい」とこぼす日本人男性が増えている。『男が心配』(PHP新書)の著者で、20年以上にわたり、男性の生きづらさを取材、研究してきた近畿大学の奥田祥子教授は「出世を目指して仕事を頑張りながら、積極的に育児に携わる『イクメン』になろうとしている男性のなかには、『男らしさ』に縛られて苦しんでいる人たちが多い。彼らの苦悩を看過できない」という――。(後編/全2回)
喧嘩する両親の前で膝を抱えて小さくなる子供
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

「結婚したら幸せになれる」と思っていたが...

前編から続く)

――結婚できずに苦しむ男性がいる一方で、結婚しても「男らしさ」に関する苦悩はなくならないという話がありました。

最近は、育児に積極的な「イクメン」が新たな男性像としてもてはやされていますが、長時間労働の是正など労働環境が改善していないために、男性の苦悩ばかりが増えています。

介護における「ケアメン」についても同様で、親や妻を在宅で介護することになり、職責を果たせないことを苦に介護離職し、さらに社会からの孤立に苦しむ男性もいます。結婚したら幸せになれると思っていても、「男らしさ」はずっとついて回るんです。

承認欲求に苦しむ「仮面イクメン」

――『男が心配』では、イクメンの“フリ”をしている「仮面イクメン」のエピソードが印象的でした。

自分から積極的に育児に関わっている「イクメン」に見えても、子育ては妻任せの「昔ながらの父親」だと思われたくなかったり、仕事での昇進競争に敗れて育児に逃げ込んだりと、不本意ながらイクメンをしている「仮面イクメン」は増えています。

本書で紹介した「仮面イクメン」は、最初は自分から積極的に育児に取り組んでいたものの、出世で同期に大きく後れをとり、さらには妻に課長昇進で追い抜かれたことで、「育児に関わっていたから出世が遅れたんじゃないか」と、自分を追い詰めてしまったようです。それでも、家庭内での存在価値を失いたくなくてイクメンの“フリ”をし続けていると、後から打ち明けてくれました。

出世競争で打ち勝つという旧来の「男らしさ」を果たすことに加え、良き父親でもありたいという思いの狭間で葛藤を続ける男性もいます。一方で、出世できるのは限られた人だけですから、妻や子どもから認められたいという気持ちを、不本意ながら育児に向けざるを得なくなるのです。