本物の「しんちゃん」がニセモノに駆逐された
「しんちゃん」といえば、漫画家の故・臼井儀人氏の代表作。1990年に漫画雑誌に登場して以来、現在も根強い人気があるが、04年に商標事件は発覚した。
双葉社が同年、上海の業者とライセンス契約を結び、上海市のデパートで子ども服、カバンなどを発売したところ、市当局から、「コピー商品を売っている」と指摘され、ホンモノであるにもかかわらず、なんと中国で「商標権侵害」と認定、売り場が閉鎖されてしまったのだ。
双葉社は93年までに日本で7分類で商標出願していた。95年に台湾に進出し「蝋筆小新」で商標登録。アニメ放映と漫画本を販売していたが、双葉社が知らない間に台湾から香港や中国へと海賊版DVDが流れてしまっていた。そこで「しんちゃん」人気に目をつけた中国企業が双葉社よりも先に、97年に中国で商標登録してしまったというわけだ。
中国の商標法は日本と同じく先願主義を採用しており、原則として先に出願した者が正式な権利を取得する。中国企業は「蝋筆小新」を複数の分類で双葉社よりも先に登録したため、ホンモノは同じ「蝋筆小新」では販売できなくなった。
中国企業の登録から8年後の05年、双葉社はようやく中国に無効審判を申請したが、97年から5年を経過した商標権は除斥期間を過ぎているとして地裁、高裁で却下処分を受ける。中国の商標法は国際的なルールと整合しているだけに双葉社は不利な状況に置かれた。
その後、双葉社が最高裁に再審請求した結果、08年に「受理すべき」との差し戻し判決が下り、上海の高裁で再審査審理を経て、地裁に差し戻し。11年9月に審理再開となり、今年3月23日に双葉社の主張を認める判決が下された。
事件発覚から8年という長い年月を経て、双葉社はついに自らがホンモノであることを証明することができたのである。
当初から「5年の除斥期間を経過」という覆せない壁があるうえ、中国では先に登録された「蝋筆小新」が幅広く浸透しており、双葉社が判決を覆すのは難しいと見られていたが、勝訴判決となったポイントは何だったのか。
中国の商標問題に詳しいオンダ国際特許事務所理事の谷尾唱一氏はこう語る。
「一連の訴訟を経て、著作権侵害で勝訴したことに大きな意味がある。著作物は生まれたときに著作権が発生するが、タイトル文字が著作権と認められるかどうかがポイントだった。今回、図形だけでなくデザイン化したタイトル文字も『中国著作権法で保護されるべき芸術作品に該当する』とされ、著作権が発生していたことが認定された」