野田政権が、原子力規制庁の新設に手間取っている。

野田政権は福島第一原発事故を教訓に、原発を規制する原子力安全・保安院を経済産業省から切り離し、環境省の外局として新たに原子力規制庁を設置することを決め、今年1月に原子力規制庁関連法案を国会に提出。4月1日スタートを目指した。

ところが、自民党が4月に対案をまとめたため、与野党の調整が続き、5月29日にようやく審議入り。野田政権は早期成立を目指すというが……。民主党幹部が言う。

「民主党のモットーは国民の生活が第一。消費税増税よりも国民の生活と生命に直結する原発を規制する省庁の設立を最優先すべきだったが、野田佳彦首相は消費税増税法案成立に命をかけると宣言、規制庁は後回しにした」

経済産業省の傘下に、原発を推進する資源エネルギー庁と原発を規制する原子力安全・保安院が並存する仕組みについては、政府はすでに2007年にIAEA(国際原子力機関)から改善を求められていたが、政府は“原発の安全神話”に則り無視してきた。前出幹部が言う。

「福島第一原発事故の被害が大きくなった原因は、同じ省が原発を推進しつつ、安全管理も兼ねていたこと。ところが事故から1年以上経つのに、組織も法体系も事故前となんら変わっていない。相変わらず経産省の安全・保安院が原発を管理し、いざというときに政府が原発を停止させる法体系もない。放射能を遮断できる免震棟を備えた原発はほとんどないのに、その設置を義務付ける法律もない。非常に危険で無責任な状態が続いている」

法案審議が遅れた責任は与野党双方にあるが、霞が関のやる気のなさも目に余る。関連法案を提出したのは環境省で、「本来なら、与野党と関係省庁の調整のために環境省が目の色を変えて走り回るべきなのに、今回は誰も動いていない。経産省も高みの見物を決め込んでいる」(民主党閣僚経験者)というのだ。

「規制庁職員の多くは現在の原子力安全・保安院の職員を横滑りさせるが、受け入れ側の環境省にとってはこれまでやったことのない分野だから本当はやりたくない仕事。原子力ムラから恨まれることも嫌がっている」(前出閣僚経験者)

こんな状況で再び大地震が起きたら、誰が責任を取るのだろうか。