他社を基準にしてはいけない

そしてもう一つ、「ありがちな価格決定の間違い」がある。それは「同業他社と比べ、それと揃えようとすること」だ。

何かの価格を付けようとする際にまず、多くの人が同業他社の商品やサービスの価格をリサーチする。別にそのこと自体は構わない。問題は、他社の価格と並びか、少しだけ安い価格を付けようとすることだ。この発想そのものが、「安くないと売れない」という旧来の常識に縛られている証拠だ。

都内にてジビエ料理レストランを展開する「ティナズダイニング」という会社がある。同店では以前、猪の肉を使った「ぼたん鍋」を2800円で出していた。なぜ2800円かといえば、周囲の店をリサーチした結果、鍋料理の上限はだいたいこのくらいの価格だったからだ。

ぼたん鍋
写真=iStock.com/motosuke_moku
※写真はイメージです

しかし、そのときには価格を抑えるために本当に使いたい素材も使うことができず、それでもなるべくいいものを出そうとした結果、高い原価率になってしまっていた。

その後、店主・林育夫氏は私の主宰する会で学び、商売に対する意識も変わってきていたあるとき、広島の生口島の猪の肉と出会った。これはみかんを食べて育った猪で、その肉もほんのりみかんの味がする。いわば「みかん猪」だ。

平均客単価が5000円→1万円に上昇した理由

最初に話を聞いたのは卸業者からだった。生口島には広大なみかん畑が広がっており、そこに猪が侵入して畑を荒らす。みかんを食べてしまう。猪はみかんが大好物なのだそうだ。

その肉はとてもおいしく、猟師によれば「みかんの味がする」。ただ、肉の色が黄色っぽくなってしまうので見栄えは悪く、おいしさに比してあまり人気がないという。

小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)
小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)

その話を聞いた林氏はぜひ店で出したいと思い、仕入れることに。この機会に思い切って3500円という値付けをしてみたが、大人気商品となった。その後、さらに3800円にしてみたが、以前にも増して売れまくった。売上は1年で1300食を超えたという。

そこで、今まで自分がいかに「安くなければいけない」というタガにはめられていたかに気づかされたという。

その後はさらに高単価の商品を連発し、客単価がどんどん上がっていった。今ではなんと、客単価はこういった取り組みを始める前の平均だった「5000円」を大きく超え、倍の「1万円」を突破しているという。

原価から考えない。同業他社とも揃えない。これが何を意味しているかと言えば、どちらも「顧客の価値から価格を考える」ということである。

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