商品の「適正価格」とはいくらなのか。マーケティングに詳しい小阪裕司さんは「原価や仕入れ値から価格を決めてはいけない。重要なのは、お客がその商品にどれだけの価値を感じるかだ」という――。

※本稿は、小阪裕司『「価格上昇」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

ネオンランプを手にした子供
写真=iStock.com/Elena Goncharova
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原価から価格を決めるのは時代遅れ

あなたはある品物の価格を決める際、どのような基準で決めているだろうか。

最も一般的な価格決定の方法はおそらく「原価や仕入れ値から決める」というものだろう。

メーカーなら、製造原価率30%などと設定し、たとえば製品一つ当たりの原価が1000円なら、3300円くらいの価格を付ける。そして、その商品を仕入れた小売業なら、仕入れ価格35%上乗せした価格で販売する、などである。

だが、「30%」「35%」という数字に、それほど明確な根拠がない場合も多い。過去からの経験則であったり、利益を出そうと調整しているうちにこの数字に落ち着いた、というケースが多いのではないだろうか。

私は20代の頃、婦人服を売る会社に勤めていたのだが、当時の価格設定はバイヤーの経験則だった。通常は仕入れ価格に35%くらい上乗せした値付けをするのだが、「この商品はもう少し安くしたほうが売れそうだ」と思ったら20%にしたり、逆にリスクを考えて40%にしておこう、などということで価格を決めていく。

最初に言いたいのは、このような「原価から決める」という価格の決め方は現代にそぐわないということだ。

理にかなってはいるが「売り手本位」の発想でしかない

より正確には、原価から決めていく値付けは「大量消費時代」のやり方だったと言ったほうがいいかもしれない。

生産や流通を分担し、各工程でかかったコストを積み上げていく。いわば「原価積み上げ式」の価格設定は、極めて工業社会的な発想だ。さらにその背景には、各工程での積み上げを小さくして、最終売価をできるだけ低くする、という考えがあったかもしれない。

それは確かに理にかなってはいるが、「作り手本位」「売り手本位」の発想である。

一般消費者向けの販売においては、世界で初めて「定価」を定めたのは越後屋(現在の三越)とも言われるが、それ以前、もっと価格はふわふわとしたものだったはずだ。「毎回買ってくれるからあの人にはこの値段で」とか、「今日はだいぶ儲けたからあとはこのくらいでいいや」とか、気分によって値段が変わったりすることもあっただろう。そもそも作り手のほうも、毎日同じ価格で原料が仕入れられるわけでもなかっただろうから、そこも含めて価格はもっと流動的だったのだと思う。

今でもアラブのスーク(市場)などに行くと商品に値札が付いておらず、客と店主は延々と価格交渉をするそうだ。お茶を飲みながら30分でも1時間でも交渉する。時間の無駄だと思う人もいるかもしれないが、これもまた商売の原点ではあると思う。