広告を打たずに、海外での販路拡大
マーケティングをしないからこそ、企画やアイデアそのものが非常に重要になってくる。良いアイデアを出すために工夫している点を、鈴木さんはこのように説明する。
「社員がいろんなアイデアを発案するなかで、根底にあるのは『良いものを生み出すために直球で話し合う』ことです。発案者や社会の流行などに迎合せず、自分が本当に欲しいものかどうかを吟味しながら、アイデアの良い部分、ダメ出しできる部分をフラットに言い合える土壌があり、日々こうしたやりとりが現場で生まれているんです」
2012年からほぼ日手帳の英語版を発売開始したのち、オンラインショップ「ほぼ日ストア」の英語化や、英語を用いたSNS運用にも取り組んだ。
また、2017年は米国の「Amazon.com」、2019年には中国の「天猫国際(Tmall Global)」にて公式オンラインショップを開設し、少しずつ販路拡大に努めてきたのだ。
アジアや欧米諸国にもほぼ日手帳のファンの裾野が確実に広がっている一方、近年は北米の成長が顕著になっているという。そのため、ほぼ日手帳の2023年版からは、A5サイズの「ほぼ日手帳カズン」と縦長サイズの週間手帳「weeks」にも英語版が追加され、さらなるラインナップの拡充がなされた。
鈴木さんは「現状、広告を打つなどのマーケティングは行ってきていません。海外のお客様が増えていくなかで、求めてくださる声に応える形で、お買い物しやすいように公式ストアを構えて、ちゃんと商品ラインナップをそろえて、丁寧に在庫を追加していったことが、さらなる海外の伸長を後押ししたと思う」と述べる。
予定帳でも、日記でもない。ほぼ日手帳の魅力
北米では、ほぼ日手帳のどういうスペックが評価され、ユーザーニーズを捉えているのだろうか。海外販路を担う西本翼さんは、「取引先からは、レイアウトの組み方の自由度が評価されていると聞きます」と話す。
「自由に使いやすいように、方眼サイズや色味も細かく調整して作っています。また、海外のお客様は万年筆を使う方が多く、万年筆と相性の良い紙を使っているので、書き味の良さも好評いただいています。180度フラットに開く糸かがり製本も書きやすいというお声をもらっています。
あとは自由度の高さも日本と同様に評価されていますね。北米だと生徒向け、教師向け、マインドフルネス用など用途ごとにフォーマットが決まっている手帳が多いんですが、ほぼ日手帳は用途も使い方も自分で決められます。
以前、当社の英語ページの制作を手伝ってくれているアメリカ人の方に『英語でほぼ日手帳について説明したいときに、どう言えばいいんだろう?』と聞いてみたら、『予定帳、日記、ノートブック……。そういった用途のすべてに使えるけど、どれでもないよね』『どれとも違うけど、そのぜんぶとして使える』『みんなが自由に使うことができるようにデザインされてる』と言われたそうです」