当時、主流ではなかった量販店での経験は、後に規制緩和されたときに役立ちました。当時の神戸でキリンは60%以上のマーケットシェアがあり、瓶ビールが9割以上を占めていました。従って販路は酒屋さんの宅配が主流でしたが、量販店では4社の缶ビールが置いてあり、お客様が好みのメーカーを選びます。

理屈で言えば、10本売れたら6本はキリンになるはずです。しかし、実際には半分以下でした。つまり、酒屋さんがプッシュしてくれる市場では60%のシェアを取っているが、お客様が自分で選べる市場だと、もしかしたらキリンはそれほど選ばれないかもしれない……。

しかもお米も肉も魚も野菜も全部買える量販店でビールを買えるようになれば、消費者にとって非常に便利です。やがてスーパーに酒販免許が下りたら大変な時代がやってくると思い、当時、本社に何度もレポートを送り、物申しました。

そうやって神戸で7年間営業をやったあとは事業開発やホテルの立ち上げなど、若いときから責任ある仕事をやらせてもらいました。それができたのはやはり、上の人が偉かったからだと思います。まだシェアの高い時期に、よくそんな生意気な若造にチャンスを与えてくれました。

私も社長に就任するにあたり、若い人にチャンスを与えていきたいと思います。年齢順に物事を考えるのではなく、能力があり変革をしたいという若い人がいたら「あと10年待て」というのではなく、どんどん登用していきたい。海外にグループ会社がたくさんありますから、そういうところにも経営者クラスの立場で登用し「試してこい」と送り出したい。

40歳、50歳になってからいきなり大きな仕事を任されても、成し遂げるのは難しい。若い頃から自分で決めて修羅場をくぐり、世の中の厳しさを知る経験をしてほしい。失敗しても潰しません。会社とは人の塊ですから、それによって力が発揮されるようになると思います。

少子高齢化が進み、若者のアルコール離れがはっきりしているという市場の閉塞感に加え、どの分野の企業も成長を求めて新興国を中心に海外展開するなか、日本に残った社員にとっては「コア事業なのに……」という悶々とした気持ちがあると思います。これを立て直し、「戦う集団」にするのが私の急務です。