子供が感染症にかかった後、多くの保育園やこども園、幼稚園などで提出を求められる登園許可証(書)や治癒証明書。小児科医の森戸やすみさんは「じつは法的にも医学的にも提出が必要だという根拠がない」という――。
幼稚園の庭
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです

登園許可証や治癒証明書のための受診

先日、「もう熱も下がり、何の症状もなくて元気なんですが、RSウイルスが本当に治ったかどうか小児科で診てもらって、登園許可証を書いてもらうよう園に言われました」と話す保護者とお子さんがクリニックを受診されました。乳幼児が病気をした後、このように保育園や幼稚園、こども園などから「登園許可証(書)」または「治癒証明書」を求められたことのある保護者は少なくないでしょう(※1)。保護者自身が書けばいいところもあるようですが、医師に書類を書いてもらうよう園から指示されるところも多く、その場合は来院せざるを得ませんよね。今夏はRSウイルス感染症、手足口病などが流行しましたから、登園許可証や治癒証明書を求めて来院される方も多かったです。

せっかく症状がおさまったのに、わざわざ子供を小児科に連れてくる保護者の方たちは大変です。それまで子供の感染症のために仕事を早退したり休んだり、小児科を受診したり看病したりした挙げ句、症状がおさまっても再び書類のために受診……。さまざまな感染症にかかった子供が訪れる小児科に来れば、親子ともに何らかの感染症がうつるリスクがありますし、特に現在は新型コロナウイルス感染症が流行しているのでよくありません。また登園許可証や治癒証明書は、診断書に準じたものになりますから、金額は医療機関によって異なりますが、保険適用外(自費)で数百〜3000円程度かかることがあります。そして私たち医師も、新型コロナなどにより外来が混雑している時に、不要な書類を書くのは負担になります。

※1 新宿区「登園許可書について

法的にも医学的にも全く根拠がない

このように親子側にも医療者側にも負担となる登園許可証や治癒証明書ですが、じつは法的にも医学的にも必要だという根拠はないのです。本来は登園するために、そうした証明書を出さなければならないという共通ルールはありません。子供の感染症に関しては「学校保健安全法」という法律がありますが、その第19条によって出席停止になる感染症は、ほんの一部です。第1種に分類されるエボラ出血熱などの重大でまれな感染症は、医師が保健所に届け出て入院することになるので、当然ながら出席停止になります。しかし第2種と第3種には、医師が治癒を確認する必要のある病気は多くありません。

身近なインフルエンザ、ヘルパンギーナ、手足口病、溶連菌感染症などは急性期こそ出席停止ですが、ほとんどは投薬を開始して何日か後、または解熱して何日か後からは登校可能です。たとえば、溶連菌感染症なら、適切な抗菌剤治療を開始して24時間を経て全身状態が良ければ登校可能となります。水痘(水疱瘡みずぼうそう)の場合は、全ての発疹がかさぶたになっていないと、感染リスクが高いので登園してはいけません。一方、伝染性紅斑(りんご病)は、ほおが赤くなる時期には感染力がないため、全身状態が良ければ登校・登園可能です。そして毎年、冬になると多くの方に伝えていますが、インフルエンザも発症日を0日として5日かつ解熱から3日(小学生以上は2日)が経過していれば登園してよく、治癒を確認する必要はありません。