検査や治療は医師だけが決められる
そのほかにも、お子さんが下痢をした時、園の先生に「もしかしたら感染症かも。お母さん、小児科で検査と診断をしてきてください。整腸剤を出してもらう時は1日2回よりも1日3回のほうが効くから、そうしてもらってくださいね」などと言われて受診されたお子さんと保護者もいました。まず、「おなかの風邪」(ウイルス性胃腸炎)は、普通の風邪(上気道炎)と同じく感染症です。そして全てのウイルスを検査して特定することは不可能ですし、必要ありません。あらゆる検査には、たとえわずかだとしても痛みや併発症、間違って陽性になる「偽陽性」、必要がないのに診断がついて無駄な治療をする原因となる「過剰診断」などのリスクが伴いますし、保険診療ですから、本当に必要かどうかを医師が判断して行います。薬の処方をしていいのも、同じく医師のみです。園の先生が細かく指示をされても、その通りに行うことはできません。
ちなみに、病児・病後児保育が風邪だと利用できないので、RSウイルス感染症や手足口病などの診断をつけてほしいという保護者の方も来られたことがあります。東京都では「病児保育とは、児童が病中又は病気の回復期にあって集団保育が困難な期間、保育所・医療機関等に付設された専用スペース等において保育及び看護ケアを行うという保育サービスです。対象となる児童の年齢や病状等の要件は、区市や施設によって異なります」という定義です。ウイルス感染症の一部を「風邪」と呼びますが、最も頻繁にかかる風邪はダメで、他のウイルス感染症ならいいというのは意味がわかりません。
基本的な知識を共有したほうがいい
こんな不条理なことが当然となっている原因の一つは、基本的な知識が共有されていないからかもしれません。「医師が検査をすれば必ずウイルスを特定できる」「医師が治療をすれば必ず早く治る」「どんな感染症にも治療薬がある」「感染力がわかる簡単な検査がある」と誤解している方もいるのではないでしょうか。でも、ウイルスや細菌はあまりにも多種多様なため、病気の原因を特定することは必ずしもできません。しかも医師はどんな感染症も治せるわけではありませんし、どんな感染症にも薬があるわけでもありません。治療法がなければ、原因を特定する必要もありませんね。そのため、RSウイルスは1歳未満、ヒトメタニューモウイルスは6歳未満、ノロウイルスは3歳未満などのリスクが高い時期の検査のみ保険適応なのです。そして、残念ながら感染力を調べる簡単な検査も存在しません。
こうした誤解があるために、園は保護者に登園許可証や治癒証明書を求め、当たり前のこととして伝えられた保護者は特に第1子だとそれが一般的なルールだと思い、小児科を受診して、そのまま検査や証明を依頼されるわけです。ところが誤解に基づいているため、医師によっては、「必要ありません」「そんな検査はありません」とお断りするかもしれません。そうすると、保護者は小児科と園の板挟みになって困りますよね。ですから、私自身も診察室で、さまざまなお父さんやお母さんに登園許可証や治癒証明書は必要ないことをご説明しますが、それでも必要だと言われれば板挟みにならないよう、なるべく「登園しても差し支えありません」というような感じで書いています。