「心理的なハードルも低く、ゲームに近い感覚でした」

盗撮と一口に言ってもさまざまなケースがあり、動機もひとくくりにはできないが、盗撮事件を起こした経験のある40代男性Aさんに直接会って取材する機会を得た。22年6月2日。顔を合わせることに多少の緊張感や構えるところもあったが、実際に会ってみると、むしろこちらが拍子抜けするほど礼儀正しく、もの静かな印象だった。

事件化した当時、スマホには女性の盗撮画像データが過去5~6年分で2000枚近く残されており、いわゆる常習犯だ。動機を聞くと、静かに語り始めた。

「痴漢は触るけど、盗撮はばれなければやっていないのと一緒と思っていました。心理的なハードルも低く、相手の尊厳を傷つけるという意識もなかった。ゲームに近い感覚でした」

19年秋、電車の中で女子高生のスカートの下にスマホを差し込み、下半身を動画で撮影した。いつも通り誰にも気づかれないと思ったが、近くにいた乗客の男性に「携帯見せて」と声を掛けられ、初めて現場を取り押さえられて事件化した。

「頭真っ白になりましたね、一瞬。一つの人生が終わったな、どうすればいいんだろうと」

もともと中学の教師として「清く正しく」をモットーに15年近く生徒を指導してきたが、職場に連絡が行くとほどなく懲戒免職になった。「盗撮で捕まる半年前に、電車の中で痴漢を捕まえたこともある。職場で紹介され、女性の味方ね、なんて言われていた」と打ち明ける。

駅に配置されている警察官
写真=iStock.com/coward_lion
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「盗撮をやっているときはパーンと全部飛ぶんですよ」

本来の自分の姿とのギャップに葛藤も抱えながら「明日はわが身、と見ている自分がいてプレッシャーだった」。それが今度は一転して自分が警察で取り調べられる立場に。結局、被害者不詳のまま書類送検された。

「盗撮をやっているときはパーンと全部飛ぶんですよ。スイッチがパーンと入ると全部忘れる。周りが見えないんです」何度かやめようと思ったことはあった。でもやめられなかった。「一生墓場まで背負っていかなくちゃいけないんだ」と追い込まれ、どんどん心の闇を深めていった。

最初に手を染めたのは大学時代。「ガラケー」と呼ばれる従来型携帯電話にカメラ機能が付いたのがきっかけだった。「最初は好奇心。撮りたくてカメラ付きを買ったのでなく、やってみたら撮れた」

だが駅のエスカレーターで「見つかったらどうしようとドキドキしながら」一度成功すると、そこからエスカレートしていった。

「性的な衝動というより、撮ることがメイン。毎日見返すこともほぼなく、撮れたかどうか見たら満足してしまう」

競馬や携帯ゲームにはまると、まったく撮らない時期もある。だが自身の「盗撮周期」に入ると、2~3カ月に1回から週1回、毎日、さらに電車を乗り換えるたびに実行するほど頻度が上がり、歯止めが効かなくなった。自分では気づかないほど盗撮の手法も大胆になり、撮ったものより撮る行為に「依存」するようになっていた。