私の都知事選の敗因は統一教会のデマだった

実は私自身も、過去に旧統一教会との関係を疑われたことがある。95年に都知事選に立候補したときのことだ。私は初出馬だったが、自分の選挙ポスターを一日で約1万8000カ所に貼った。

すると、国会議員時代の石原慎太郎氏が、自民党の集まりで「大前は統一教会にポスター貼りを頼んだに違いない」と言ったと伝わってきた。私は石原氏のところへ飛んでいき、なぜデタラメを言ったのかと問い詰めた。すると彼は、自分が最初の選挙で旧統一教会の世話になったから「同じだろうと思った」と白状した。私は経営コンサルタントだから、宗教団体ではなくて、軽貨物運送の「赤帽」に依頼して代金を払って貼ってもらったのだ。

ところが、後日TBSの「筑紫哲也 NEWS23」に他の候補者と出演すると、「大前さんは“在日朝鮮人”だという噂がある」と言われた。石原氏の「統一教会が協力した」というデマに尾ひれがつき、私自身が在日朝鮮人だという話になっていたのだ。

私は母親に電話して、終戦時に陸軍大尉となっていた父の軍人恩給証書をファクシミリで送るよう頼んだ。仲がよかった東京都の自民党員のところへ持っていき、「自民党がデマを流している。これを見ろ」と証書を出し、相手は「すぐにやめさせます」と約束してくれて噂は消えていった。しかし、1度流れたデマの影響は大きく、都知事選の敗因の1つとなってしまった。

選挙に出て目撃した宗教団体の組織力

95年の都知事選は、身をもって政治と宗教の結びつきを知る機会となった。各政党へ挨拶にまわったとき、公明党の人から「大前さんの政策(サイレントマジョリティの国づくり)は、私たちと一致している。ここにサインしてくれたら応援します」とわら半紙を渡された。都知事になったら「過去にさかのぼらない」という誓約書だった。

何の過去かといえば、1つには都営住宅の抽選だ。ある地域の都営住宅は、入居希望者の抽選で、創価学会の信者は当選しやすいといわれた。ガラガラまわして玉がポンと出る抽選機で、なぜか学会信者がまわすとアタリの色が出て、信者以外はハズレが出る。都議会の住宅港湾委員会(当時)の委員長ポストは、公明党の都議が押さえていた。

私は誓約書にサインしなかったから、公明党は別の候補者を応援した。しかし、個人的に応援してくれる公明党の議員がいて、そこで私は創価学会の組織力を目の当たりにすることになる。

ある区議会議員が、私の選挙カーが走るルートを考えてくれたのだが、彼が指示した時間に、ある都営住宅沿いを走ると、道路側の窓がいっせいに開いて、たくさんの住民が手を振ってくれた。公明党の区議会議員がアレンジして、創価学会の婦人部が動いてくれたのだろう。ほかの団地やマンションで窓が開くことはないから差は歴然だ。創価学会の組織力が選挙で頼りにされるのは当然だと痛感した。