人間、遠い未来を考えると不安になるもの

我が子のことなのに前を向けないなんて、周りにどうやって打ち明けたらいいかわからないなんて、と自分を責めていた私の悲しみや不安に、夫が寄り添ってくれたことが、とても嬉しかったです。

育てなくていい、という言葉にはびっくりしましたが、それは言い換えると、今は先のことは考えなくていい、という意味だったと思います。

心理学を学ぶようになってあらためて知ったことなのですが、人は先行きの見えない未来のことを考えるとき、とてもストレスが溜まります。心まで病んでしまわないために、大切なのは、先ではなく、今この瞬間だけを見つめて、ぼうっとすることです。

夫の言葉は、良太の未来を考えなければならないという私がかかっていた呪いを解いてくれました。子どもの未来なんて、本当は誰にもわからないんです。いくら考えたって仕方がないことでもありました。

私はすでに、ショックを受けながらも、腕に抱く良太のことをかわいいと思い始めていました。その時だけを見れば、私は、生まれてきた良太が愛しくてたまらないんです。

不安はありました。でも、今は良太がかわいいと思う気持ちだけを見つめよう。見えないくらい遠い未来のことは置いておこう。いざとなれば育てなくていい、という究極の選択肢を出してくれた人がそばにいるなら、きっと、このかわいい我が子を育てることはできる。なんとかなる。夫のおかげで、そう思えました。

1日1日の成長を心から楽しめるようになった

最初は、健常者の子どもと違うことが、とても怖かったです。

良太の成長はとてもゆっくりでした。2歳前まで歩けなかったし、言葉も話せません。低緊張なので筋力が弱くて、抱っこするとぐにゃぐにゃしていました。奈美の時とは何もかもが違います。

子を抱き上げる母親
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです

だけど、ゆっくりですが、良太は成長していました。

先生からは「寝たきりかも」「歩けないかも」と言われていたので、心配していましたが、他のみんなよりずっと遅れて良太が歩き出したのを見たときの嬉しさは、言葉だけでは表わせません。

はっきりしないけど「ママ」「パパ」らしき言葉を発してくれた時、泣きながら抱きしめました。奈美は、私が何かできた時より喜んでる! とすねながら、一緒になって喜んでくれました。

子どもの成長は、当たり前じゃない。こんなにも、世界がひっくり返ってしまいそうなくらい嬉しいのかと、自分でもびっくりしました。喜怒哀楽の表情を見るだけでもそう思います。1年先、10年先のことを想像するとやっぱり不安は拭えませんが、1日、1カ月先の成長が楽しみでした。