「紙で書いて覚える」は効率が悪い
テストが学習に効果的であることも重要ですが、加えてとても興味深いのが、学習者自身の評価です。
テストによって学習をしたグループは自己評価が低く、ほかの学習方法をしたグループのほうが「記憶できている」と答えた人が多かったのです。しかし実際は、最も記憶ができていたのがテストによる学習をしたグループでした。
自分では「記憶できていない」と思っていても、実際には記憶ができているケースがあることが、この実験結果からわかります。
逆に、1回だけ読んだグループは、70%近くが「文章の内容が頭に入った」と認識していますが、テストでの正答率は30%にも満たない結果となりました。
このように自己認識と実際に記憶できている度合いには開きがあるので、注意しなければなりません。
テストが学習効果を高めるのは、漢字を覚えるときも同じです。
これまでの漢字の練習というと、見本を見ながら何度も写して練習するものでした。10回も20回も書き写すというのは、時間もかかるし手も疲れる。そういう大変さがあるから、達成感は得られます。
しかし残念ながら、効率よく記憶に残る方法ではありません。それよりも、1文字書いたら紙を替えるといった方法で、テストをしながら覚えるほうが効果があります。
ヒントから導き出すと定着しやすくなる
次に紹介するのは、自分で能動的に記憶をアウトプットすることが効果的だという知見です。これを「産出効果」といいます。「能動的なアウトプット」は、ヒントにもとづいて自分で答えを出すことだと考えるとよいでしょう。
たとえば英単語を記憶したいとき、英単語を声に出して音読したり文字をなぞったりするよりも、英単語のなかの文字がいくつか隠されている単語を見て、それが完全になるように文字を補完するほうが、覚えられます。
対象を声に出して読むこと自体が能動的なアウトプットだと思うかもしれませんが、完全な状態のものを読みあげるのと、不完全なものを与えられて自分で考えて完成させるのとでは、長期記憶への定着しやすさがちがうのです。
産出効果は、ノーマン・スラメッカという研究者が1978年に発表しました。古い研究ではありますが、今でもとても有益な知見です。
この実験は、2つペアになった単語のリストが与えられ、1つ目の単語が提示され、対応する2つ目の単語を覚えるというもので、2つの学習方法でテストの結果を比較します。
グループ1(GENERATE)は、
HOT-C_ _ _ 〈対義語〉
というように、1つ目の単語との関係性(対義語、同義語など)と先頭の文字がヒントとして出されるので、2つ目の単語の答えを自分で考えて産出し、それを記憶します。
グループ2(READ)は、ペアの単語とその関係性が提示されるので、それを読んで学習します。
テストでは、1つ目の単語が提示されるので、ペアとなる単語を答えます。
答えを自分で生成するグループ1は、多くのカテゴリーで80%から高いもので90%近い正答率を出しています。一方、READグループは70%前後の正答率でした。両者の差は平均すると15%ほどでした。