前掲のトロントの都市設計家であるブロンダー氏も、日本では発達した鉄道網に加え、鉄道駅が都市のハブとして機能していると評価している。東京など日本の都市は、駅を拠点としてオフィスやレストランなどを組み込んだ複合施設を開発する「Rail Integrated Communities(鉄道統合型コミュニティー)」の手法の成功例が豊富だと氏は述べる。
トロントの一部でも同様の開発手法が採用されはじめている模様だ。ブロンダー氏は、「トロントがこの分野をリードする東京に続き、正しい道を歩んでいるかもしれないという希望をもてる兆候だ」と前向きに評価している。
なお、トロントでは70%が車通勤だが、東京は30%に留まっていると氏は指摘する。高い公共交通の利用率が駅の利便性をさらに高める循環になっているようだ。
もっとも、駅ビルなど集積的な再開発は、『Emergent Tokyo』で主張されている創発的な都市像とは正反対の姿となる。しかし、公共交通を中核とした街づくりという意味においては、これもまたひとつの東京の良さだと受け止められているようだ。
雑然とした街にある合理性が魅力に
日本の都市は海外に比べてごみごみとした印象は拭えないが、日本を訪れる海外客にとっては、その雑然さこそが名だたる観光地・東京の魅力となっている。
ひしめくネオンが単に写真映えする光景を作り出しているだけではなく、新宿の路地裏などに代表される小さな店舗や住居一体型の商業スペースが都市にフレキシブルな空間を与え、スモールビジネスが活況を呈している。
雑然とした路地が続く住宅地においても魅力が海外で再評価されており、生活圏におよそすべてが揃う人間的な街として都市の専門家たちの関心を呼んでいるようだ。アメリカやオーストラリアではスーパーまで車を飛ばさなければならないような都市も多い。
一方、日本の都市部では駅を降りれば歩いて飲み屋街へ行くことができ、通勤も電車で済ませることが可能だ。このような生活スタイルは、どこか新鮮な感覚をもたらすようだ。
もちろん地下鉄はニューヨークなどにも走っており、電車通勤が日本だけの習慣ということではない。だが、政府や自治体が大掛かりな計画で鉄道網の整備を進めた一方、都市の細かいデザインは、戦後に自発的に延びていった路地や飲み屋街の跡を色濃く残している。
トップダウンの交通網と自発的に発展した街角の景色が絡み合い、結果として人々が生活しやすく時代の変化にも柔軟に対応できる都市が形成されている。雑然としてみえる東京の街角には、時を経て自発的に形成された、ある意味での合理性が秘められているようだ。