東京の路地裏は、活気ある地元ビジネスの原点となっているようだ。慶應義塾大学のホルヘ・アルマザン准教授(空間・環境デザイン工学)らは、4月に刊行した新著『Emergent Tokyo(原題)』において、手狭なバーや商店がひしめく東京の路地裏を都市機能の観点から高く評価している。

住宅地と近接する「裏路地」

書名にもある「エマージェント」は創発とも訳され、ボトムアップの形で自然発生的にものごとや機能が沸き起こり、トップの調整者がなくとも自然にうまく作用し合うことを意味している。まさに東京はこの形で成り立っているようだ。

アルマザン准教授はブルームバーグの取材に、東京には怪しくも魅力的な「横丁」と呼ばれる路地があり、バーやレストラン、ブティックや工房などが開かれていると説明している。2階に住む高齢のオーナーが1階を若者に貸してコーヒーショップとするなど、非常に柔軟な空間利用が可能だという。

新宿に限らず、住宅地にかなり近接した区域でもこの形態は都市計画上許可されている。「アメリカに住む人にとっては突飛にも感じられるかもしれない」ほどユニークな施策だとの評価だ。このような「マイクロスペース」にひしめく柔軟な店舗こそが、都市を活性化しているのだという。

飲食店が軒を連ねる雑然さと力強さ

ゴールデン街の極小スペースに詰め込まれた数々のバーも、雑然とした光景がただ海外客に衝撃を与えているだけではない。およそ大規模店を構えるには至らない地元のオーナーたちに、優れた商機を与えている。

新宿のゴールデン街
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厳密にはゴールデン街は、戦後の新宿に現れた無許可店舗を計画的に移設した経緯があり、完全な創発(自然発生)とは異なる。ただ、戦後当時の混乱のなかで立ちあがろうとした店舗が原点となっており、その雑然さと力強さの面影をいまも残す。

新宿の著名な路地としてはこのほか、西口の「思い出横丁」が挙げられる。こちらも戦後の闇市を出発点としており、現代でも細く入り組んだ路地裏に数十の飲食店が軒を連ねている。アンダーグラウンドながらどこか温かい空気が人々を惹き寄せるのだろう。パンデミックまでは新宿のオフィスワーカーに加え、多くの訪日客を集めていた。

こうした路地裏が日本独自の魅力を放っているほか、都市部ではよくみられる雑居ビルも、日本らしい空間利用だとして海外で注目されているようだ。カナダ・トロント在住の建築家で都市計画家のナーマ・ブロンダー氏は、カナダの不動産ニュースサイト「ストーリーズ」に寄稿し、トロントの都市設計は東京のアプローチに学ぶべきだと主張している。トロントでは小さな土地が余ると、ただ空き地となる傾向が強いのだという。