シリコンバレーが持つ引力の正体

何が天才たちを、ベル・エポックのパリや20世紀半ばのニューヨーク、あるいはメガロポリスのシリコンバレーなどの大都会にひきつけるのだろうか?

創造性にあふれた街というのは、昔から、多種多様な人々――最近では多くの場合、移民――が異なる発想を持って集まる交差点にあった。新しく来た人々が、それまでの知的環境のなかに斬新なアイデアの種を播き、そうして新しい考え方が生まれる。

シリコンバレーの交通標識
写真=iStock.com/Tick-Tock
※写真はイメージです

シリコンバレーは、俗に「天才ビザ」と呼ばれ、きわめて優秀な外国人労働者の移住を認めるH-1Bビザを有効に活用して、世界中からハイテク分野の最優秀頭脳を引き寄せている。

「文明の偉大な進歩はほぼすべてが[中略]最高に国際化の進んだ時代に起こってきた」と歴史家のケネス・クラークは述べている。アメリカのあの南西の国境の壁についても、同じことが言えるだろうか?

最後に、異花受粉させるには、ほとんど政府の検閲なく多種多様なアイデアが行き交わなければならない。

「天才は自由な雰囲気のなかでしかのびのびと呼吸ができない」とジョン・スチュアート・ミルは話していた。そして、それが奨励されなければならない。

シリコンバレーの投資家たちは、世界中の他のどこよりもベンチャー企業に資本を提供し、その規模は2018年の数字で105億ドル。次点の都市、ボストン(30億ドル)の3倍を超えている。

財務的なサポート、新しいアイデア入手の機会、表現の自由、競争、最高のものを相手に自己診断できる機会――これらがすべて、シリコンバレーの引力になっている。

創造性の中心となる都市は常に移り変わる

では、都市はどれくらい大きくなければならないのだろうか? それは、最小限必要なものが手に入る程度に大きくなければならない。

クレイグ・ライト著、南沢篤花訳『イェール大学人気講義 天才』(すばる舎)
クレイグ・ライト著、南沢篤花訳『イェール大学人気講義 天才』(すばる舎)

作曲家であれば、劇場、演奏家、プロデューサー、観客、評論家が必要だ。画家であれば、手助けしてくれる同僚画家だけでなく、エージェントやギャラリー、フェスティバル、展示のためのスペース、そしてパトロンが必要である。

エンジニアは、仲間となるテクノロジー技術者、装置、そして研究資金を必要とする。そしていずれの分野でも、競争相手が必要であり、仕事が必要である。大きなチャンスは、天才を動かずにはいられなくさせる。

天才同様に、創造性の中心も常に動いている。歴史的には、中心は東から西へ、中国から近東、そしてヨーロッパへ、イギリスからアメリカ東海岸、そしてアメリカ西海岸へと動いてきた。

次のシリコンバレーはどこに出現するだろうか? 天才たちが大きな円を描いてアジアに戻ってくる? 創造性の中心がすでにシンガポールに出現し始めている? パリがツーリストであふれ、ニューヨークの家賃が桁外れに高騰してきた今、次の革新の中心はどこになるのだろうか?

その答えは休むことを知らない天才たちをフォローして探ってみよう。さらにいいのは、いい風はどちら向きに吹くのかを見極めて荷造りをし、そこに一番乗りすることだ。

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