宝塚歌劇団の魅力はどこにあるのか。書評家の三宅香帆さんは「こんな関西の山奥に美女たちを閉じ込め、男装させて毎日歌わせ踊らせる……。その異様さを忘れさせてしまうほど、エンターテインメントとしての宝塚の魅力はすさまじい」という――。

コロナ禍の煽りをもっとも受けた舞台演劇だが…

関西移住することになった。

決まった時、一番最初に思ったのは「ムラ近くなるじゃん!」だった。

ムラ。それは、兵庫県の宝塚市にある「宝塚大劇場」周辺の愛称である。ちなみにそう呼ぶのは宝塚歌劇団のファンだけ。

私はいわゆるヅカオタである。しかも宝塚歌劇団にハマったのは、コロナ禍になってからだった。

コロナ禍になって宝塚にハマった。そういうと驚かれることもある。あらゆるエンタメの中で、コロナ禍の煽りをもっとも受けているのが舞台演劇だ。

今もなおコロナの影響で公演中止を余儀なくされ、さまざまな制限がなされている。従来のファンが楽しんでいた、宝塚独特のファン文化こと「お茶会」も「出待ち」もない。ときには誰とも感想を喋らずにマスクをしてひっそりと観劇するだけの日もある。それでも、やっぱり、宝塚の魅力は舞台上で変わらず光り続けている。

取り憑かれたようにテレビを見漁った

宝塚だけは、ハマるとやばそう。昔の私には、そんなイメージがあった。

日比谷にずらりと並ぶファンの列。「宝塚」と聞いたときの印象はそれだった。ファンクラブの序列があるだとか、使う金額が桁違いだとか、そんな「沼が深そう」な話ばかり聞こえてきて、宝塚だけはハマると怖そうだというイメージが、実はあった。絶対に誰かのファンクラブに入らないと楽しめないコンテンツなのでは? とも思っていた。

そんな私がなぜ宝塚を見に行く機会に恵まれたかといえば、とある演目を友人が絶賛していたからだ。そのタイトルは宝塚歌劇団宙組公演『アナスタシア』。私が一度見てみたいなあと興味を持っていたら、なんとその友人がチケットを融通してくれたのだ。

実際に見たら、びっくりした。自分の好みど真ん中の世界が、そこにあった。歌も衣装も脚本も舞台装置もなにからなにまで夢のようで、こんな世界がこの世にあったのかと思った。なにより宙組トップスターの真風まかぜ涼帆すずほさんがかっこよすぎて、「誰この人……」と放心状態で帰り道を歩いたことを覚えている。

真風涼帆さん
写真=時事通信フォト
東京スカイツリーで宝塚歌劇との限定タイアップ企画「宝塚歌劇 in TOKYO SKYTREE」が始まり、宙組トップスターの真風涼帆さんが出席してオープニングイベントが行われた=2018年3月1日、東京都墨田区

家に帰った私は、取り憑かれたように、楽天TVを見漁った。

もしかすると、宝塚歌劇団といえば、劇場のイメージが強いかもしれない。しかし現在は、配信サービスにも力を入れている。たとえば、月額1650円で過去作品を見られる「タカラヅカ・オン・デマンド プレミアムプラン」の配信サブスクサービスにも力を入れているのだ。また特定の作品映像をみたいときは、550円で1週間レンタルできる。どちらも楽天TVのサービスだ。

私はたまっていた楽天ポイントで、真風涼帆さんの出演していた宙組公演を見漁った。ちょうど在宅勤務だったから、昼休みや自炊の時間といった、配信を見られる環境が整っていた。

自分の昔好きだった漫画『天は赤い河のほとり』、あるいは映画で見たことのあった『オーシャンズ11』、そして『アナスタシア』と同じロシアを舞台にしたオリジナル作品『神々の土地』を見た。全部全部面白くて、華やかで、なにより真風さんはいつだってかっこよかった。