「やめられなくなる」メカニズム
モラ夫は、妻に対して怒る。自らは支配者で妻が従属者であるから、怒りで相手を支配し、制御するのは容易なことだからだ。被害妻は怒られると、モラ夫に譲り、反省し、謝罪する。つまりモラ夫からすれば、怒りに対して直ちに報酬が与えられる。
怒るとドーパミンなどの脳内麻薬が分泌され、快感や多幸感を得る。妻の謝罪により、さらに脳内麻薬の分泌が促される。報酬、快感、多幸感を得て、モラ夫は怒りやモラハラ自体に依存するようになる。ちなみに、たった一度の体験で、生涯消えることのない依存症が生ずることもあるという。
こうなったモラ夫は、妻をディスり、怒り、怒鳴ることをやめられなくなる。そして、妻を怒る理由を探し始める。妻がミスをするなど、怒る理由を見つけると、モラ夫は一瞬「嬉しそうな顔」をするという。怒っているときのモラ夫は、エネルギッシュで、楽しんでいるようにも見える。いわゆる「イッてしまっている」目をしていると多くの被害妻は証言する。
ここまでくると、モラハラがシフトアップすることはあっても、その逆はない。このレベルのモラハラを更正するためには、専門家による支援を必要とする。
妻の洗脳とモラハラ増長の悪循環
日本の女性も、当然、モラ文化の中で育つ。父や夫を家長とする社会的・文化的規範が、女性たちの人格の基礎にも取り込まれているはずである。そのため、ほとんどの女性は、結婚する際に夫の姓を選択することを当然視し、夫を「主人」と呼ぶ。「従順」「我慢」「子どものため」を女性・妻・母である自分が拠って立つ基礎的な価値観としている女性も多いだろう。
そこへ「主人」であるモラ夫が、妻としての不足を言い立てる。従順な妻は、反省し、謝罪する。それがさらにモラ夫を増長させる。
妻が夫の支配的な言動に弱音を吐くと、周囲から「男は立てていればよい」「長男だと思いなさい」などとアドバイスされ、女性は従順でいることが求められてきた。むしろ、「我慢が足りない」「博打もせずに働いて、いい旦那様なのに」などと、もっぱら妻の我慢不足、努力不足が指摘されてきたのだ。
モラ夫は、家事、育児、その他のあらゆることにおいて妻の不足を見つけては批判し、不機嫌になり、文句を言い立てる。たとえそれが理不尽なものであっても、妻の反論は通用しない。この点を、多くの妻は「うちの主人は弁が立つ」と説明する。しかし、実際には弁が立つわけではない。「妻はモラ夫を言い負かすことができない」というのが真相である。
なぜ言い負かすことができないか。一言でいうと、モラ夫にはルールも遠慮もなく、卑怯な論法を使うからである。モラ夫は平気で嘘をつき、事実を捻じ曲げる。その一方で、妻がモラ夫の言っていることを否定したり、疑ったりすると激しく怒る。そのため、妻は心理的にモラ夫に逆らえなくなる。