母親を亡くした猿の赤ちゃんが求めたもの
「質のよいつながり」と「質のよい情報やスキル」の両方がなければ、人はよい方向へ変化することはできない――これは、私が長年教育現場で心理学を教え、カウンセリングをしてきた中で、行き着いた結論です。
こうしたよい関係性は、幸せだけでなく、挑戦と成長にもつながります。
ここで、それを実証した心理学者ハリー・ハーロウ氏の、母親を亡くした猿の赤ちゃんの実験を紹介しましょう。
この実験では、母親を亡くすと早世してしまう猿の赤ちゃんに、2つのつくり物の猿のお母さん――1つはミルク入り哺乳瓶を持った針金製、もう1つは哺乳瓶を持たないけれど温かい布製のぬいぐるみを与えました。
すると赤ちゃんは、布の母親になつき、1日の大半を檻で一緒に過ごすようになりました。
ここでは、赤ちゃんと布のお母さんのよい関係性が育まれたと言えます。
そこで今度は、針金の母親といるときと、布の母親がいるときの別々に、新しく熊のぬいぐるみを与えました。最初は猿の赤ちゃんは、どちらと一緒にいるときも、熊のぬいぐるみをとても怖がっていました。
ところがしばらくすると、針金の母親といるときは、いつまでも檻の隅にうずくまって怖がっていたのが、布の母親といるときは、初めはお母さんにすがりついていても、少しずつ、熊のぬいぐるみに興味を持って近寄るようになったのです!
人間が挑戦するには「安全基地」が必要
そして、怖くなると布の母親のところに戻り、また熊のぬいぐるみに近寄って……という行動を繰り返すうちに、最終的に熊のぬいぐるみと遊ぶようになったのですね。
これは、お母さんが「安全基地」になっているからこそ、赤ちゃんは挑戦し、成長できたという証し。
世の中には、子どもの成長を願って、崖から突き落とすくらい厳しく接するといい、という考え方もありますが、それは目的にかなった行動とは言えません。なぜなら、親子のよいつながりが安全基地となるからこそ、人は成長できるのですから。
安全基地は、子どもだけでなく大人にも必要です。私のオンラインサロンでも、最初はサロン内だけで「挑戦できる」と言っていた人たちが、今では外の世界でも挑戦できるようになっています。
みなさんも、何かのコミュニティやチーム、個人同士の関係などをつくるときは、まずは心理的安全性の土台である質のよい関係性をつくっていくことを、最優先に考えてほしいですね。