2007年の日本シリーズ第5戦。中日の落合博満監督は、日本ハムを完全に抑えていた投手・山井大介を8回で降板させた。なぜ史上初の「日本シリーズでの完全試合」に挑戦させなかったのか。捕手として試合に出場していた谷繁元信さんの新著『勝敗はバッテリーが8割』(幻冬舎)より紹介する――。(第2回)
9回、投手交代を告げる中日の落合博満監督(左)=2010年6月16日、ナゴヤドーム
写真=時事通信フォト
9回、投手交代を告げる中日の落合博満監督(左)=2010年6月16日、ナゴヤドーム

物議を醸した2007年日本シリーズ第5戦の真実

2007年の日本シリーズ第5戦、山井大介―岩瀬仁紀の「継投・完全試合」。

8回までパーフェクトに抑えた山井を、抑えの岩瀬に代えた。最終的には落合博満監督と森繁和バッテリーチーフコーチの決断だ。交代に関しては賛否両論あるだろうが、当時の内情をくわしく明かす。

この試合、山井のスライダーのキレが抜群によかった。ストレートの走りもずっとよかった。山井の変化球は、スライダーとフォークボールの2つが主体だ。

日本ハム打線のひとまわり目。スライダー中心でいったら、日本ハム打線のタイミングがまったく合わなかった。

ふたまわり目。スライダーが意識され始めたので、フォークボールを少し交ぜた。日本ハム打線は、それにまんまとはまって戸惑っていた。

3まわり目。今度は相手がスライダーとフォークの両方を意識してくれた。ならばスライダーは打たれるまで使おうと考えた。

相手投手はダルビッシュ有。第1戦は13奪三振1点で敗れ、この第5戦も11奪三振1点。2回裏の平田良介の犠牲フライ以外、手も足も出なかった。

7回か8回、山井が「指のマメに少し傷ができましたが、これはもう全然関係ないです」と僕に話した。

8回表終了時、森コーチが僕に続投か否かを相談に来てくれた。

「もし、この試合勝ちにいくのであれば、僕は代えたほうがいいと思います」

根拠はあった。山井の球はキレが落ちてきて、相手に少し対応され始めていたのだ。

「マメをつぶしました。いっぱいです」

差は1点。もし逆転負けを喫して3勝2敗になったら、今度は敵地・札幌ドームでの試合になる。ヒルマン監督が率いる日本ハムとの日本シリーズは2年連続で、前年の2006年は1勝4敗で敗れている。思えば2004年の日本シリーズ対西武戦も、3勝2敗と王手をかけながら中日は逆転を許していた。

ひとりの投手で完全試合を達成すれば格好いいが、それより僕もナインも53年ぶりの日本一になりたかった。絶対的な守護神不在ならまだしも、中日には岩瀬が控えているのだ。

森コーチが山井に指の状態と続投意思を確認する。

「マメをつぶしました。いっぱいです」