「交渉進められない」と表明したマスク氏の本音
その状況下、ツイッターのビジネスモデルの行き詰まり懸念が高まる。同社はSNSプラットフォーマーとして広告収入を得る。しかし、世界経済の減速によって広告収入は減少する。規制強化もマイナスだ。競争も激化している。ツイッターがクラウドコンピューティングなど新しい分野に進出することも難しい。
ウクライナ危機は長期化する可能性が高い。それによって、世界全体でのインフレも長引くだろう。ツイッターが高成長を目指すことは追加的に難しくなっている。高い株価で再上場を実現できるか否か、リスクは高まっている。このようにマスク氏は想定外の展開を懸念し始めたはずだ。
5月に入ると、マスク氏は買収交渉を進められないと表明した。表向きの理由は、偽アカウント情報が不十分であることだった。ただし、その本音は、買収を実行するか、取りやめるか、判断の時間を確保するためだったと考えられる。
経営者に欠かせない信義則にもとるのではないか
最終的に、マスク氏はツイッターの買収を撤回した。ツイッターはマスク氏が買収契約を履行しなかったと批判した。同社はマスク氏を提訴した。買収契約の内容にもとづけば当然だ。要は、マスク氏には信義則を守るという認識が十分ではなかった。
米証券取引委員会(SEC)もマスク氏の姿勢を問題視している。5月にマスク氏は買収を前に進められないとツイートした。そこには買収撤回の示唆と解釈できる部分があった。その時点で、計画に重大な変更が生じていた可能性は高い。
しかし、マスク氏は買収計画を修正しなかった。今回の買収劇は多くの利害関係者を巻き込んだ。ツイッター株価は乱高下した。テスラの株価も大きく動いた。それが投資家に与えた影響は過小評価できない。一連のマスク氏の発言やツイートは、信義則にもとると言われても仕方ない。
なお、同様の懸念が浮上したのは今回が初めてではない。テスラは非公開化を示唆したマスク氏のツイートに関してSECから2度目の召喚状を受け取った。テスラはマスク氏のツイートを精査するようSECから命じられた。ただし、それを徹底することは難しい。