「偽アカウントの開示」をツイッターに求めた理由

次に、マスク氏は人工知能(AI)など先端技術の導入を目指したはずだ。AIを用いることでより効率的な偽アカウントの摘発を目指す。人海戦術をとる必要性は低下する。ツイッター全体で事業運営の効率性は高まる。その上で得られた収益を新しいサービスの創出に再配分する。人々が安心して、自由に利用できるデジタルな表現の場を生み出す。それは競合他社との差別化要因になる。ユーザーは増え、広告収入も増す。その上でツイッター株を再上場し、利得を手に入れる。

計画遂行のために、マスク氏は偽アカウントのデータ入手にこだわった。どの程度の偽アカウントがあるか。社内のリソースが偽アカウント撲滅に十分か。追加の人員採用、システム投資は必要か。表向き、同氏はそうした問題を精査し、事業計画の実効性を高めるために偽アカウントの情報開示をツイッターに求めた。また、買収が発表された時点で、マスク氏は株価の下落は一時的というように、先行きの世界経済を楽観していただろう。

IT業界の成長鈍化、金利上昇、資金調達コスト…

しかし、買収発表後、世界経済の状況は急激に悪化した。マスク氏が買収を実行に移すことは難しくなった。まず、世界的に株価が下落した。それは同氏にマイナスだ。事業計画が想定された実績を上げることも難しくなった。背景には複合的な要因がある。米国のIT先端分野では成長期待が剝げ落ちている。アマゾンは物流コストや人件費の急増によって収益が圧迫された。アップルは供給制約の深刻化によって需要を取りこぼしている。

SNS大手のメタ(旧フェイスブック)もコスト増加に直面している。これまでとは逆に、IT先端各社はコストカットを強化せざるを得なくなった。採用の抑制や凍結、人員削減が急ピッチで進む。

また、連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ退治を徹底しなければならない。それもマスク氏に逆風だ。大幅な利上げと量的引き締め(QT)が同時に進む。短期を中心に金利は上昇する。期待先行で株価が上昇したIT先端銘柄の売り圧力は一段と強まる。企業の資金調達コストも増える。買収資金を借り入れるマスク氏の負担は増す。