警察庁指定の警護対象者だった故安倍元首相
——安倍元首相の奈良での遊説は、前日に決まったそうですね。急な予定だったから、対応できなかったということでしょうか。
いいえ、急な予定というのはよくあります。災害などの対応でも同じで、警察はそういう突発的なことに対処するのが仕事です。警察の幹部、例えば警察署長なら署長官舎に単身赴任しているし、課長級以上の幹部も官舎に詰めて、24時間行動を管理されている。いつ何があってもすぐ対応し、人員の招集も含めて必要な手配を行うのは当然のことです。
急に決まったとはいえ、あの場所で安倍元首相が応援演説をするという情報は、おそらく前日から前々日には入っていたと思います。どこからどのような手段で現地まで移動し、何分ぐらいその場所にいて、帰路はどうするのか。分刻みのスケジュールに対し、警護計画を策定し、人員の配置を定めるのが普通の対応です。
現場での対策以外に、事前の情報収集なども重要です。警察内のいろいろな部署から情報を吸い上げて、それを警備計画に反映させる。ネット検索などのいろいろな手段で、一つでも襲撃につながるような情報があれば、懸念のある人物に事前に接触するなどの対策を取ります。
——安倍元首相は、要人とはいえ現役の閣僚ではないから、警備本部を立てるほどの警護対象ではなかった、ということなんでしょうか。
それはありえません。安倍元首相は警察庁指定の警護対象者になっています。東京にいるときは警視庁のSP(セキュリティーポリス、要人警護任務専従警察官)がチームを組んで、常に警護を行っています。しかし、警視庁もローカルな警察組織の一つであり、今回のような地方遊説の際には、警備の主体はその地域の道府県警察が担います。警視庁のSPが同行していたとしても、移動中の警護は担当しますが、目的地の警備においてはオブザーバー的な立場です。
それなのに警備本部が立っていないというのは、今回の警備を軽視したと指摘せざるをえません。安倍元首相は間違いなく有名な方で、演説するとなれば必ず人が集まりますよね。大勢の聴衆が集まる場所であれば、悪意の者が入り込む可能性は必ずある。本来なら、1パーセントでも襲撃の可能性があれば、やはり警備本部は作るべきなんです。