抜き打ちの異音に反応させる訓練も

——例えば対象者を警護させておいて、抜き打ちで音を発生させるような訓練もやるわけですね。

もちろんです。東京・木場にSATの訓練場があるんですが、そういう場所で、銃器を持った襲撃者が現れたという想定で、警護側も銃器で対応するような訓練も行っています。

——現場の奈良県警の警護担当者は、そうした訓練を受けているようには見えなかった、ということですね。

そう思いますね。警視庁のようにSPという専属の部署があるわけでなく、おそらく規模が小さいんだと思います。

——このような事件が起きたことで、今後、選挙などの警備は厳重にならざるを得ないですよね。一方で、守られる政治家の側は有権者との距離が遠くなることは望まないでしょうし、市民も警備体制の物々しさに抵抗を感じるかもしれません。どのようにバランスをとればいいのでしょうか。

難しいですね。やはり政治家にとっては、有権者との距離感というのは重要ですから。

そういうときに何が重要かといえば、情報なんです。事前の情報、そして当日の情報。その当日の情報をコントロールするのが警備本部なんです。

会場の近くに不審者がいれば、公安の刑事が注視を行います。必ず近くに立って、それも1人に対して2人の刑事が見張り、ずっと付いていきます。複数の不審者がいれば、複数に対して同様に2人ずつを付けます。

SPは「悪意を持った人物はすぐ分かる」といいます。大勢の聴衆に紛れていても、「あいつの目はおかしい」と気づく。そういう情報が、他の警護員にもすぐに共有される仕組みがあります。ちなみにアメリカのSPがサングラスをしているのは、人物を追う目の動きを相手に読まれるのを防ぐためですが、日本ではまだ導入するところまではいっていないですね。

——今回、事件前に容疑者の不審な姿をとらえた映像や写真がたくさんありました。しかるべきスキルを持つ警護官が注視していれば、不審人物の存在に気づけたのではないかと思いました。

公安の刑事が配置されていれば、必ずマークしたでしょう。一般の警察官では見分けられないかもしれませんが、刑事であればかならず違和感を抱くはずです。ましてや、車道に出て警護対象者に近づきはじめた時点で、本来であれば制圧排除すべきでした。

——今後どのような対応策が必要でしょうか。

警察庁主導の警護官トレーニングセンターを作り、地方警察の警護官のスキルの底上げと一定化を図る必要があります。

また、リスクの高い警護対象者の警備には、警察庁にサポートチームを作り、地方警察へのアドバイス体制をつくることも考えられます。

(取材・構成=川口昌人)
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