要人警護というより「雑踏警備」

安倍元首相の前方に、民間の警備会社の警備員が立っている映像にも驚きました。おそらくは襲撃に対する警備というより、選挙期間中でもありソフトな雑踏警備という観点から、民間の警備会社に任せたのでしょう。しかし、安倍元総理が現場に到着した時からは、本来であれば警察官を立たせるべきです。演説場所の背後の大きな交差点にしても、どんな車両が入ってくるか分からないわけだから、パトカーを配置し、要所に制服の警察官を立たせるのが普通です。

イギリスの警察車両が並ぶ事件現場
写真=iStock.com/Georgethefourth
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——聴衆に威圧感を与えないソフトな警護というのは、警護される側からそういう要望があったのでしょうか。

詳細はわかりません。ただ、安倍元首相の警備として、警察からソフトな警備を提案することはありえません。警察は「このような事案も想定されますから、こちらの警備計画でお願いします」と言うでしょう。しかし、警護される側から「そこまでの警備は必要ない」と要望されれば別です。もしかすると、奈良県警は「それでは守り切れません」と強く言えなかったのかもしれません。

——今年3月、札幌地裁で、街頭演説する安倍首相(当時)にヤジを飛ばす市民を北海道警の警察官が排除したのは違法だという判決が出ました。こういう判決で警備する側が萎縮したということはないでしょうか。

それはないでしょう。判決は判決として、今後どう対応するかを警察は考えていくでしょうが、警備に萎縮ということはありえないです。100パーセントを目指すのが警備ですから。

——演説場所の安全上の弱点を指摘されましたが、要人がどこで演説をするかといったことについて、警察から要望を出すことはないのでしょうか。

「この場所で演説したいので、警備を考えてください」と依頼されるのが普通です。どうしてもあの場所で演説をしたいのであれば、選挙カーを持ってきて、その上で演説するという方法もあります。その場合でも、背後の道路を封鎖したいですね。しかし、今回は選挙カーも道路封鎖もなかった。危険があるにもかかわらず、警備部の幹部が地元に配慮して「問題ない」という判断をしたことに問題があったと思います。