ロシア・エリートが安倍氏を称賛する理由は…

ロシアの指導層からも、安倍氏を称賛する発言が続いた。

ウクライナ問題で強硬な反欧米レトリックを強めるメドベージェフ前大統領は「安倍氏は日本の政治家の中で、ロシアとの関係発展を進めた数少ない人物だ」と述べた。

ペスコフ大統領報道官は「安倍氏は常に日本の利益を守り、外交交渉で実践した。そのため、プーチン大統領とは非常に良好で建設的な関係を築いた。このような政治的意思は現在、多くの国で不足している」と語った。

コサチョフ下院副議長は「安倍氏が長年にわたりロシアとの効果的な協力計画を指揮したことは永遠に記憶される」と称えた。

ガルージン駐日大使も「戦略的、長期的ビジョンを持った政治家で、ロシアとの緊密な善隣関係が日本の長期的利益になると考えた愛国者」とし、安倍氏を継承する政治家の登場を望むと指摘した。

モスクワの日本大使館には、市民の要請で献花台が置かれ、多くの市民が花をたむけたという。

ウクライナ侵攻で西側から強烈な経済制裁を浴びる中、ロシア側は、安倍氏の対露融和外交のありがたさを想起したかにみえる。日本国内で低い安倍氏の対露外交への評価がロシアで高いのは、結果的にロシアを利するものだったことを意味する。

赤の広場
写真=iStock.com/Mordolff
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安倍氏という「重し」が取れ、関係はさらに険悪化する

安倍氏の「不在」で、今後の日露関係はますます険悪化しそうだ。

ロシアのバシキン上院議員は「安倍氏は日露の友好に大きく貢献したのに、岸田首相がすべてを破壊した」と非難した。下院国際問題委員会のチェパ第一副委員長は「複雑化する日露関係が改善される見込みはまったくない」と述べた。

ウクライナ戦争後、欧米諸国を非難するプーチン大統領自身が日本を名指しで非難することはなかったが、親しい安倍氏の死で重しが取れ、今後は対日批判に乗り出すかもしれない。

ロシアは日本企業が出資するサハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」を接取する方針を示したのに続いて、同じく日本企業が参加する「サハリン1」についても、「ロシアの管轄下に置かれる方向にある」(ザワリヌイ下院エネルギー委員長)という。

ガルージン大使も「日本の一連の対露敵対政策は、対抗措置に遭うことになる」と警告した。

ロシアは経済面の報復制裁に加えて、日本周辺での対日軍事威圧も強めている。ウクライナ侵攻で愛国主義が危険なほど高まるロシアを過度に刺激しない外交も必要になる。

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