「こうはなりたくない老後」としての『リア王』
「老年の孤独」の悪い例を、シェイクスピアの戯曲から読み解いてみましょう。作品は『リア王』。「こうはなりたくない老後」が見えてきます。
悲劇は、リア王が国事から引退し、3人の娘たちに領土を委譲する場面から始まります。彼女たちに父を思う気持ちを語らせ、一番父思いの娘にたくさん遺産をやろうと、試すようなことをするのです。
このとき三女のコーディーリアは、父を想うあまりに煮え切らない答えだったために、リア王の怒りを買ってしまいます。「お前には何もやらない」と。
家督を譲った後、リア王は50人の従者を連れて2人の娘を訪ねるのですが、「従者の面倒までは見られない」とつれなくされてしまいます。リア王は娘に裏切られたとキレて怒りまくり、さらに絶望してひとり、嵐のなかを彷徨います。孤独のどん底に落ちた老人、リア王の咆吼が延々続くこのシーンが、一番盛り上がるところです。
リア王はやがてコーディーリアに出会い、気持ちが通じ合います。
そして最後は「どいつもこいつも人殺しだ、謀反人だ!」と叫んで、自分も息絶える。何の救いもない物語です。
「老年の孤独」に陥らないための3つの心構え
良きにつけ悪しきにつけ、リア王は最後まで元気です。けれども怒りに支えられての元気ではしょうがない。演劇として「キレまくるリア王」を見るのはおもしろいのですが、こんな老人が身近にいたら大変です。誰からも相手にされず、自ら孤独を抱え込むことになるだけです。この悲劇から学ぶべき「老年の孤独に陥らないための心構え」は3つ。
1つ目は、財産の生前贈与をあまり急がないこと。薄情者の相続人は、もらうだけもらったら、あとは知らんぷりする危険があります。
2つ目は、ちょっとしたことでキレないこと。年をとるとガンコで気が短くなるせいか、自分の思い通りにならないとすぐにキレてしまう傾向があります。私はこれを「老人性キレキレ症候群」と呼んでいます。確実に周囲の総スカンを受けるので、要注意です。
3つ目は、自分の老後は自分で何とかできるよう、手立てをしておくこと。ちゃんと「子離れ」をしておかないと、子どものお荷物になってしまいます。
劇中で、道化がリア王を諫める場面なども参考にして、老後のプランを練るといいでしょう。