知能をつかさどる前頭前野が拡大する
記憶は知能(特に、知識・経験という記憶を活用する結晶性知能)の重要な基礎で、知能の脳内中枢は前頭前野です。では有酸素運動で前頭前野はどうなるか? という研究も当然ながらかなりなされました。前頭前野の老化は海馬よりもむしろ早く(20代から)始まるので、有酸素運動による「脳の若返り」も気になりますし。
そして、やはり、比較的初期の研究で、海馬と同様に、有酸素運動(ウォーキング)によって、前頭前野が発達する(拡大する)ことが分かりました。他の脳領域で大きくなった部位はほとんどないかごく小さく、研究者たちは(予測通りとは言え、驚いたせいか)前頭前野における広範囲の拡大を強調しています。
有酸素運動によって脳が若返る仕組み
さらに、有酸素運動(ウォーキングやジョギング)で、前頭前野が若返ることも多数の研究で実証されています。
加齢で前頭前野は概して小さくなりますから、「有酸素運動による前頭前野の拡大」は前頭前野の若返りと言えますが、加齢(脳年齢)の指標は大きさだけではなく「効率」があります。一言で言えば、若いほど前頭前野の効率は高く、加齢に伴って非効率になってゆくんです。
例えば、同じ認知機能を使う際に、高齢になると(元々血流量は加齢で少なくなっているのに)より多くの脳血流を使ったり、左右脳の血流を同程度に使うようになったりします。つまり非効率化です(旧式のクルマでは燃費が悪い、つまり、同じ距離を走るのに多量のガソリンが必要、といった感じです)。
ところが、有酸素運動によって非効率性が減弱し、前頭前野の効率性が良くなることが分かったんです。まさに若返りですね。
脳老化には脳の血流量の低下が相当に関与しますが、有酸素運動によって前頭前野の脳血流が増えることも(当然と言うべきか)実証されています。このデータも「有酸素運動による脳の若返り」とみなすことができます。
有酸素運動による前頭前野のこうした変化(拡大や効率化、血流増加)によって、前頭前野が担う知能・認知機能も当然ながら向上します。例えば、1日20分ほどのジョギングによって、数カ月で知能テストが1・7倍も向上するとか、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を日常的にしている人たちでは知能(一般知能を含むHQ)が高いというデータが得られています。
まさに、有酸素運動は前頭前野の知能を向上させるんです。
もちろん、前頭前野が担う各種認知機能も同様で、有酸素運動によって注意力や自己制御力、問題解決能力、あるいは創造力などが向上するという証拠があります。