生物界では経験を積むのは命がけ

「知能」は優れた能力だが、それを使いこなすには、それなりの手間を掛けなければならない。

1年に満たないうちに生涯を終えてしまうような昆虫は、知能を使いこなすことができない。そのため、昆虫は生まれてすぐに決められた行動をすることができる「本能」を高度に発達させるほうを選択したのである。

知能を利用するためには、「経験」が必要である。

そして、経験とは「成功」と「失敗」を繰り返すことである。

囲碁や将棋のAIは、「こうしたから勝った」「こうしたから負けた」という経験を蓄積していく。

知能を発達させた哺乳動物もまったく同じだ。

成功と失敗を繰り返すことで、どうすれば成功するのか、どうしたら失敗するのかを学んでいく。そして、判断に必要な経験を積み重ねていくのである。

しかし、問題がある。

たとえば、シマウマにとって、「ライオンに襲われたら死んでしまうから、ライオンに追われたら逃げなければならない」ということは、生存に必要な極めて重要な情報である。しかし、だからといって、その情報を得るために「ライオンに襲われる」という経験をすれば、そのシマウマは死んでしまう。

ライオンから逃げるシマウマ
写真=iStock.com/MogensTrolle
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成功と失敗を繰り返して、経験を積み重ねるためには、「失敗しても命に別状はない」という安全が保障されなければならないのである。

親の保護のもとに哺乳類の子は多くの経験を積む

それでは、哺乳類はどうしているのだろう。

哺乳類は、「親が子どもを育てる」という特徴がある。

そのため、生存に必要な情報は親が教えてくれるのである。

たとえば、何も教わっていないシマウマの赤ちゃんは、どの生き物が危険で、どの生き物が安全かの区別ができない。何も知らない赤ちゃんは、ライオンを恐れるどころか、ライオンに近づいていってしまうこともある。

一方、ライオンの赤ちゃんも、どの生き物が獲物なのかを知らない。そこで、ライオンの親は、子どもに狩りの仕方を教える。ところがライオンの子どもは、親ライオンが練習用に取ってきた小動物と、仲良く遊んでしまうことさえある。教わらなければ何もわからないのだ。

シマウマの赤ちゃんも何も知らない。そのため、ライオンが来れば、シマウマの親は「逃げろ」と促して、走り出す。シマウマの子は訳もわからずに、親の後をついて走るだけだ。しかし、この経験を繰り返すことによって、シマウマの子どもはライオンが危険なものであり、ライオンに追いかけられたら逃げなければならないということを認識するのである。

親の保護があるから、哺乳類の子どもたちはたくさんの経験を積むことができる。

たとえば、哺乳類の子どもたちは、よく遊ぶ。キツネやライオンなど肉食動物の子どもたちは、小動物を追いかけ回して遊ぶ。あるいは、兄弟姉妹でじゃれあったり、けんかしたりする。こうした遊びは、「狩り」や「戦い」、「交尾」などの練習になっていると言われている。

そして、遊びを通して模擬的な成功と失敗を繰り返し、獲物を捕る方法や、仲間との接し方など、生きるために必要な知恵を学んでいくのである。