悪いことだと知っていても、浮気や不倫を繰り返す人がいる。政治社会学者の堀内進之介さんは「我慢するべきなのに我慢できないのは、人間の本性のせいだ。自制心をめぐる問題は古代ギリシア時代から論じられてきた」という――。

※本稿は、堀内進之介『データ管理は私たちを幸福にするか? 自己追跡(セルフトラッキング)の倫理学』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

信頼関係が崩壊した既婚男女のけんかの最中
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完全な一夫一妻制を守ることは難しい?

ここに不倫に関する、興味深い調査がある。コンドームの製造で有名な相模ゴム工業株式会社が2018年に行った調査だ。この調査には、結婚相手・交際相手以外での性交渉(つまり不倫と浮気)に関する設問がある。

それによれば、結婚相手・交際相手以外の人と性交渉をする相手がいる(特定の人や複数人などの合計)と答えた人は、男性で平均26.4%、女性で平均15.2%であった(※1)

また、ある記事によれば、いくつかの調査を複合的に分析すると、一生のうちの不倫経験率は、男性が74.0%、女性が29.6%になるという(※2)。配偶者以外との性交渉を不倫と定義すれば、男性の風俗利用率は41.8%というデータもあるので、男性の不倫経験率はもっと高くなるかもしれない。

ことほど左様に、浮気や不倫に関するデータを見る限り、とりわけ男性の自制心は、とても頼りないものだと分かる。進化生物学は、男性のこうした行動には、人間の子孫が首尾よく繁殖するのを促す、生物学的・心理学的な性質が作用していると論じており(※3)、近年の研究では、現代における完全で本格的な一夫一婦制は、ヒトという種のレベルで見た場合には、本来、運用が難しいものである可能性が高いとの見方も示されている(※4)

制度に縛られていたときよりも関係は壊れやすい

このような研究は、言わずもがな「不倫」を免責する理由を発見したと主張するものではない。そうではなく、生物学的・心理学的な性質と、私たちの価値観や制度にはギャップがあること、それゆえ、そのギャップを埋める努力や工夫が必要だと示唆しているのである。

進化生物学がこう示唆するのは、結婚はかつて家同士の取り決めとして行われ、そこに個人の意思が介在する余地は少なかったが、いまでは恋愛結婚が主流となっているからでもある。現代に生きる私たちの大半は、自分たちの意思だけに基づいて親密な関係を結ぶことができるし、また、そうであるべきだとも考えているはずだ。

親や他人に決められた結婚をする人は少なく、強制された恋愛などは考えにくい。その意味で、お互いの意思が尊重されるようになったのは好ましいことだ。しかし同時に、制度や慣習に縛られていたときよりも、関係が壊れやすくなったことも考慮しておく必要がある。