見る見るうちに金が消えていく

午前10時。長かった準備期間を経て、ようやく入場だ。場内をみんなが一斉に駆け出していく。バーゲンセールみたいだ。

中にはダッシュしてる男もいるけど、店員が両手を広げて必死に止めている。先頭の順番ならわかるが、もう200番台だぞ。そこまで急ぐ必要あるのか?

俺も狙い台を取られたら困るので、速足で「凱旋」まで急ぐ。

なんとか言われたとおりの台を確保できた。ラインで取れたことを伝えたら、打ち始めるよう指示がきた。よし、始めましょうか。

スロットマシンが並ぶ店内
写真=iStock.com/Alina555
※写真はイメージです

右上にある紙幣投入口に1万円札を入れ、貸出ボタンをプッシュ。ジャラジャラジャラーっと、コインが流れてきた。

適当に掴んでスロット台にコインを投入し、レバーをオン。

ボタンを押してスロットを停止。ふう、今日一日でこれを何回繰り返すことになるんだろう。

5分もしないうちに、千円分のコインが消えた。

貸出ボタンを押してメダルを追加。まあ、そんな簡単に当たるとは思ってない。

こんな調子で打ち続けたら1万円がソッコーで溶けた。いまだ当たりそうな気配すらない。

さらに追加で残りの軍資金1万円を追加。しかし、アッという間に目の前の2万円が消えた。

はあ、なんかもう疲れてきた。しかし、スマホを確認してビックリ。まだ10時50分。2万も使ったのに1時間も経ってないのだ。

自分の金じゃなくてよかった。

俺はあくまでシミュレーションの道具

軍資金が底をついたので、ラインを送って追加で受け取ることにした。

『すみません。2万なくなりました。追加でもらえますか?』
『ファミマ前に来てください。なるべく小走りでお願い』

席を立ち店を出て、先ほどのファミマ前へ。1時間ぶりの再会だ。

「はい。これ」

差し出されたのは先ほどと同じ2万円。

「じゃ、先に行くから。450ゲームまで回して、当たらなかったら他の台に移動していいよ。末尾だけ○日と同じにしてね」

そう言い残して店に駆けていった。そう、彼自身も店で打ってるのだ。

少しぐらい小言をいわれる覚悟をしていたが、2万程度は意に介してないようだ。

台に戻る途中で、彼の姿が目に入った。すでに箱にメダルを詰めている。たぶん、実力はあるんだろうな。

あくまで予想だが、彼が自分で打つのが確実に勝てる台で、俺に打たせているのは実験みたいな感じなんだろう。

たぶん、打ち子を雇って店の傾向を分析しようとしてるのだと思う。

多少負けたとしても気にしてないようにみえるのは、俺に勝ちを期待してるわけではなく、あくまでシミュレーションの道具として利用してるからだ。

さて、追加で3千円打ったところで450ゲームに到達。同じ末尾の「凱旋」に移動する。本当にこんなんで大丈夫だろうか。

逐一報告せよとのことなので、ラインで一報をいれる。

『450ゲームまでいったので、移動しました』
『できればもう少し早く打って』

なんだよ、注意されちゃった。

さて、移動した先の台で、残りの1万7千円を使ったのだが、それでも当たらない。4万円をすべて打ち切ったところで正午になっていた。4万で当たりゼロ。かー! スロットは怖い!