見る見るうちに金が消えていく
午前10時。長かった準備期間を経て、ようやく入場だ。場内をみんなが一斉に駆け出していく。バーゲンセールみたいだ。
中にはダッシュしてる男もいるけど、店員が両手を広げて必死に止めている。先頭の順番ならわかるが、もう200番台だぞ。そこまで急ぐ必要あるのか?
俺も狙い台を取られたら困るので、速足で「凱旋」まで急ぐ。
なんとか言われたとおりの台を確保できた。ラインで取れたことを伝えたら、打ち始めるよう指示がきた。よし、始めましょうか。
右上にある紙幣投入口に1万円札を入れ、貸出ボタンをプッシュ。ジャラジャラジャラーっと、コインが流れてきた。
適当に掴んでスロット台にコインを投入し、レバーをオン。
ボタンを押してスロットを停止。ふう、今日一日でこれを何回繰り返すことになるんだろう。
5分もしないうちに、千円分のコインが消えた。
貸出ボタンを押してメダルを追加。まあ、そんな簡単に当たるとは思ってない。
こんな調子で打ち続けたら1万円がソッコーで溶けた。いまだ当たりそうな気配すらない。
さらに追加で残りの軍資金1万円を追加。しかし、アッという間に目の前の2万円が消えた。
はあ、なんかもう疲れてきた。しかし、スマホを確認してビックリ。まだ10時50分。2万も使ったのに1時間も経ってないのだ。
自分の金じゃなくてよかった。
俺はあくまでシミュレーションの道具
軍資金が底をついたので、ラインを送って追加で受け取ることにした。
『すみません。2万なくなりました。追加でもらえますか?』
『ファミマ前に来てください。なるべく小走りでお願い』
席を立ち店を出て、先ほどのファミマ前へ。1時間ぶりの再会だ。
「はい。これ」
差し出されたのは先ほどと同じ2万円。
「じゃ、先に行くから。450ゲームまで回して、当たらなかったら他の台に移動していいよ。末尾だけ○日と同じにしてね」
そう言い残して店に駆けていった。そう、彼自身も店で打ってるのだ。
少しぐらい小言をいわれる覚悟をしていたが、2万程度は意に介してないようだ。
台に戻る途中で、彼の姿が目に入った。すでに箱にメダルを詰めている。たぶん、実力はあるんだろうな。
あくまで予想だが、彼が自分で打つのが確実に勝てる台で、俺に打たせているのは実験みたいな感じなんだろう。
たぶん、打ち子を雇って店の傾向を分析しようとしてるのだと思う。
多少負けたとしても気にしてないようにみえるのは、俺に勝ちを期待してるわけではなく、あくまでシミュレーションの道具として利用してるからだ。
さて、追加で3千円打ったところで450ゲームに到達。同じ末尾の「凱旋」に移動する。本当にこんなんで大丈夫だろうか。
逐一報告せよとのことなので、ラインで一報をいれる。
『450ゲームまでいったので、移動しました』
『できればもう少し早く打って』
なんだよ、注意されちゃった。
さて、移動した先の台で、残りの1万7千円を使ったのだが、それでも当たらない。4万円をすべて打ち切ったところで正午になっていた。4万で当たりゼロ。かー! スロットは怖い!