改めて痛感したのは、昨今のビジネス書に対する需要が「スキル」に傾斜しているということだ。それが証拠に、ほとんどのビジネス書のオチは「ということで、これからは○○のスキルを身につけよう!」となっている。そう言っては元も子もないのだが、僕の本は戦略ストーリーを構想するためのスキルを伝授する本ではないし、そもそも『ストーリー戦略』(?)というような新しい戦略理論(?)を提示しようというつもりもない。「これからは『ストーリー戦略』のスキルで差をつけよう!」とかいうスキルの習得を期待して、僕の本をお読みいただくと、まず確実にアタマにくるという成り行きである。

「じゃあ、どうすればいいのか」という質問に対しては、「あきらめが肝心です」としか言いようがない。ない袖は振れないのである。逆におたずねしたい。そもそも「戦略づくりのスキル」などというのもがこの世にあるのだろうか。

誰かがつくった戦略の分析ならばスキルでなんとかなる。分析フレームワークもたくさんある。しかし、すでに存在している戦略を分析するということ、自らオリジナルな戦略ストーリーをつくるというのは、まるで違う仕事である。

戦略分析は担当者(たとえば「経営企画部門」の「戦略スタッフ」)の仕事である。しかし、戦略をつくるということは、商売全体を組み立てるということであり、担当者の手に負えない。あくまでも経営者の仕事である。戦略をストーリーとして考えるという僕の視点からすれば、戦略は分析の産物ではない。戦略の構想は何よりも「綜合」(シンセシス)の思考を必要とする。戦略をつくるという仕事にはそもそも「分析」(アナリシス)の思考とは相容れない面がある。

分析と綜合の違いは、「スキル」と「センス」の違いといってもよい。分析がスキルを必要とするのに対して、綜合はセンスにかかっている。

スキルとセンス、どちらも大切である。ただし、両者はまるで異なる能力であり、区別して考えることが大切だ。戦略「分析」がそうであるように、スキルは「担当者」の仕事に対応している。ファイナンスのスキルがある人がファイナンス担当をやり、法律のスキルのある人が法務担当をやり、英語のスキルがある人が海外担当をやる。