失った歯の本数が多い人ほど脳の萎縮度が高い

私のクリニックでも認知症患者さんたちの歯の数を調べたところ、衝撃の結果となりました。

そもそも数えるべき歯がない。歯が0本の「総入れ歯」の方が非常に多かったのです。

クリニックの75歳以上の外来患者さんの総入れ歯率は、25%。

一方、厚生労働省が発表した75歳以上の方の総入れ歯率は、18.24%です。

比べると、クリニックの認知症患者さんの総入れ歯率は、一般の方より6%以上も高くなっています。

これは医学的に見て、とても高い数字です。

この結果からも、歯がないと認知症になりやすいことがおわかりいただけると思います。

このことを裏付けるようなデータもあります。

名古屋大学大学院医学系研究科の上田実教授が行った調査によると、アルツハイマー型認知症の高齢者は、健康な高齢者に比べて、残っている歯の本数が平均して3分の1しかなかったと言います。

また、歯がないにもかかわらず入れ歯などの補助的な歯を使用していない率が高く、健康な高齢者の半分ほどしかいなかったのです。

さらに、アルツハイマー型認知症の高齢者は、健康な高齢者より、20年も早く歯を失っていたことも明らかになりました。

上田教授は、歯が早く失われ、しかも治療もせずに放置しておくと、アルツハイマー型認知症の発症リスクが、健康な人の3倍になると結論づけています。

加えて、この研究では、すでにアルツハイマー型認知症を発症している高齢者に関して、失った歯の本数が多い人ほど脳の萎縮度が高いという画像診断結果が出ました。

つまり、歯がないとアルツハイマー型認知症を発症しやすいだけでなく、進行しやすいことも明らかになったのです。

だとすれば、これから私たちがすべきことは明らかです。

歯をしっかり温存するような歯のケアを心がければよいのです。

歳をとると歯周病菌が増えやすくなる

脳を活性化し若返らせるには、歯をしっかり温存するための歯のケアを行えばよい。

こう言われたあなたは、もしかして次のように思いませんでしたか?

「ふーん、それなら自分は歯みがきを1日3回しているから大丈夫だな」
「自分はほとんどむし歯がない。つまり、きちんとケアしてるってことだから、この調子なら問題ないな」

いえいえ、待ってください。今までのやり方で大丈夫だったのは、これまでの話。

実は、歳をとると、口の中の環境が変わって、ある細菌が増えやすくなります。それが歯周病菌です。

歯周病は、歯周病菌の感染によって起こる「歯茎の炎症」です。ごく軽い炎症から始まるので痛みもなく、ほとんど自覚できません。

そのまま静かに進行し、違和感に気づいて歯科医院に行くころには、すでに歯茎も歯根もボロボロになっていることがよくあります。そうなると、歯医者さんも抜歯するしかありません。

歯がなくなれば脳血流が減って認知症リスクが高まることは、先ほどお伝えしたとおりです。歯周病は脳を老化させる大きな原因なのです。

この歯周病は日本人の大人のほとんどが患っている、いわば国民病。

その発症率は35歳前後から上がっていき、40代になるころには、なんと8割もの人が進行に差はありますが歯周病を発症します。

実は、若い人の口の中にも歯周病菌はたくさんいるのです。それなのに、35歳前後から発症率が増えていくのは、このころから加齢により免疫力が低下するせいだとする説があります。

若いころは歯周病菌で歯茎に軽い炎症が起こってもたちまち治っていたのに、免疫力が落ちたせいで修復のスピードが追いつかず、歯周病が進行するというわけです。

だとすれば、若いときと同じ歯のケアをしていたのでは、たちまち歯周病を発症することになります。事実、むし歯がなかったり、歯みがきに自信があったりする人ほど、「自分は大丈夫」と過信して歯科検診を怠り、歯周病を進行させてしまうことが多いのです。

歯周病は、風邪などと違って自然治癒しませんから、脳の老化を防ぎ、イキイキとした脳の状態を保ちたいなら、35歳からは、歯のケアをこれまでと変えなければいけません。

あなたがこの記事を読んでいる今が、そのタイミングなのです。