命は口に始まり、歯で終わる

それにしても、なぜ口は、脳内でこんなにも広い範囲を占めているのでしょう?

それは、命が口に始まり、歯で終わるからです。

私たちがこの世に生まれ落ちて、一番初めにすることは、お母さんのお乳を飲むこと。

つまり栄養の摂取です。

そのときの栄養の摂取口が「口」。生まれたばかりの私たちは、必死になって、舌、口、顔面の筋肉を動かして栄養を摂取します。生まれたてで未発達な脳は、生きるために欠かせない栄養の摂取を最優先で行うために、口にまつわる運動領域を思いきり広くしました。

同時に、摂取した栄養から受ける味覚・嗅覚・触覚などの多彩な情報を処理するために、感覚領域でも口の範囲をドカンと広げたのです。

口による栄養の摂取は、生まれてから死ぬまで続きます。

つまり、私たちが生きていくために絶対になくてはならないものだから、脳内の口の領域がこれほどまでに広くなったのです。

極端なことを言えば、手がなくても、足がなくても、生きていくことは可能です。

けれど、歯がなくなり口が使えなくなって栄養の摂取ができなくなったら、生きていけません。歯が使えなくなったときから、命の終わりに向かっていきます。

命を支えるために、脳とどこよりも強く結びついているのが、口なのです。

だからこそ、歯のケアで口の中を刺激された認知症患者さんたちは、脳全体が刺激されて、どんどん元気になりました。

脳寿命を延ばす鍵は、歯にあったのです!

「歯がない人はボケやすい」は本当だった!

実は、歯でものを噛むと、ひと噛みごとに脳に大量の血液が送り込まれます。

ここでちょっと、歯の根元の構造について見てみましょう。

歯の下には「歯根膜しこんまく」というクッションのような器官があって、歯はそこにめり込むようにして立っています。噛むときは、歯がこのクッションに約30ミクロン沈み込みます。

そのほんのわずかな圧力で、歯根膜にある血管が圧縮されて、ポンプのように血液を脳に送り込むのです。その量は、ひと噛みで3.5ml。

3.5mlといえば、市販のお弁当についている、魚の形の醤油入れ。

あの小さい容器がだいたい3~3.5mlサイズです。

だとすれば、噛むということは、そのたびに、あの容器いっぱいの血液をピュッと脳に送り込んでいることになります。

ひと噛みでこの量ですから、よく噛む人の脳にはひっきりなしに血液が送り込まれて、その間、常に刺激を受け続けていることになります。

つまり、噛めば噛むほど刺激で脳が活性化されて元気になり、どんどん若返るのです。

ところが、歯の本数が少なくなればなるほど、歯根膜のクッションにかかる圧力が減って、脳に送り込まれる血液の量が少なくなります。脳への刺激が減って、脳機能の低下につながるわけです。

脳機能の低下は、ヤル気の喪失や、もの忘れを引き起こし、やがては認知症へとつながっていきます。事実、口の中に残っている歯の数と認知症発症率には、関連があります。

東北大大学院の研究グループが、70歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、「脳が健康な人」の歯は平均14.9本でしたが、「認知症疑いあり」と診断された人はたったの9.4本でした。

つまり、残っている歯が少ない人ほど、認知症になりやすいことが明らかになったのです。

昔から言われている「歯がない人はボケやすい」は、科学的に見ても正しかったわけです。