モニター調査で利用者の約12%が蒸気レス炊飯器に関心を持っているという結果が出た。IH方式の炊飯器の販売台数は年間400万台。もし、関心を持つ人の1割にあたる4万8000台もの需要があれば、開発の価値は十分にあった。

「私自身も、炊飯器から蒸気が出るのが当たり前という考えに縛られていた。でも、蒸気レスに興味を持つお客様が予想以上に多かった。水の交換などの手間にも抵抗感を持っていなかった。認識を変えてみようと思いました」

試作品の小型化にも成功。顧客への聞き取りや調査を繰り返した。ふだん一度か二度の調査で済ませるが、今回は10回以上も調査を行った。顧客が評価した点は3つ。ひとつ目は、デザイン。ふたつ目が蒸気レス。そして、美味しさ。

ヒット商品になる――。

利用者の声を聞けば聞くほど、赤石は手応えを感じた。炊飯器から出る蒸気には、ご飯のうま味であるノリ状の「おねば」が含まれる。従来は、蒸気とともにうま味が逃げないように火力を制御していた。だが、それでは強火で継続して炊いた米に比べて味が落ちる。

蒸気を漏らさないシステムの開発は、味の進化にも繋がった。強い火力でしっかりと炊きあげることが可能なうえ、「おねば」も閉じこめることができる。

発売前、赤石は量販店の営業担当者に「蒸気レスIH」で炊いたご飯を勧めた。

「デザインやシステムだけではなく、進化した味を実感してほしかった。担当者の反応を見て、これは売れると確信しました」

炊飯器らしくないデザインと新しいシステムが注目される。が、一時のヒットでは終わらないのは、美味しく炊くという炊飯器の「当たり前」の性能へのこだわりだったのだ。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(初沢亜利=撮影)