公務員の副業禁止を見直すべき

ここからは、今後のことを考えたい。同様の事件が起きないようにするために何を変えるべきなのだろうか。

おそらく、事件を受けて国税局や税務署は職員に対する監視を強めるだろうし、注意喚起のための研修がなされるだろう。でも、それだけで事件を防げるとは思えない。

私の考える対策は、「公務員が収入を得る選択肢を増やす」ということだ。要するに公務員の副業を、守秘義務などを守ることを前提に解禁し、“まっとう”に稼げる仕組みを作ることが、不祥事の抑止につながると考えている。

公務員は原則として副業を許されていない。だから、収入を増やしたくなった職員が最初に考えるのが「投資」だ。しかし、利益を確実にするには数十年単位の長期投資がセオリーだと言われる。投資をしたからといってすぐに目の前の生活はよくならないし、そもそも若手職員なら投資をするお金自体がないかもしれない。

すると次に考えるのは、信用取引やFXといったリスクの高い投資か、隠れて副業をすることだろう。先に挙げた懲戒処分の事例は、まさにそのような背景があったことがうかがえる。

無論、そのように考えたとしても実行する職員はまれだ。懲戒処分のリスクを考えれば、失うものがあまりに大きい。でも全国に約5万6000人いる国税職員のうち数人がネットなどの甘い言葉に誘われ、不正をはたらいたとしても私は驚かない。

薄暗い部屋で電話をかける男性
写真=iStock.com/yamasan
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公務員の副業が禁止されているのは、「職務専念義務」が規定されている国家公務員法に基づく。公務員は国民全体の奉仕者であり、公平中立であることが求められているから、公務以外のことはするな、ということである。

小林 義崇『節税の全ワザ』(きずな出版)
小林 義崇『節税の全ワザ』(きずな出版)

しかし、今はかつてより国税職員の退職金や年金などの待遇は悪化し、社会保険料などの負担も増している。働き方改革の流れを受け残業代も当てにできない。「公務員の給料だけでは足りない」と感じる職員は年々増えているはずだ。

国税職員だった頃、私より上の世代の職員には「組織にいれば一生安泰」という信頼があるように見えた。この組織への信頼は、不正の抑止につながったと考えられる。しかし今の職員、とりわけ若い職員にそうした信頼があるのだろうか? 「組織に一生を預けられないから、リスクを取って不正に手を染める」と考える職員が出てきてもおかしくはない。

あらためて強調したいが、大半の国税職員は今もきちんと職務専念義務のルールを守っている。だが、そのルールに無理が生じているのであれば、時代に合わせた抜本的な改革が必要ではないだろうか。

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