国税職員の“リアルな”収入

今回の事件に関する報道で、国税職員の平均給与が約43万円であることを引き合いに出しているものがあった。しかし、国税職員は年功序列の賃金体系になっており、単に平均給与を見てもあまり意味はないだろう。今回逮捕された職員が24歳という点を考えれば、平均給与よりも初任給のほうが実情に合っているはずだ。

逮捕された職員は高校卒業後の2017年4月に東京国税局に採用されている。高卒採用の場合、採用後に1年間の普通科研修を受け、これを卒業すると約17万円の月給になる。逮捕された職員の勤続年数や勤務地などの状況を踏まえると、逮捕時点の手取り給与は20万円に達しない水準であったと思われる。

年功序列賃金の公務員だから、若いうちはどうしても生活は苦しくなる。筆者は国税専門官採用だったので逮捕された職員よりも高い初任給を得ていたが、それでも決してゆとりはなかった。

これは筆者が国税職員だった2017年までの話なので今は状況が変わっているかもしれないが、国税職員には特殊な支出がある。たとえば労働組合の組合費や、自費の社員旅行のための積立金、たびたび行われる飲み会代など。これらの支払いは強制ではないものの若手職員にとって拒否しづらいものだ。こうした支払いがあると、確実に生活は圧迫されてしまう。

逮捕された職員は、投資セミナーに参加し、その後、暗号資産の投資グループに入ったことで、今回の事件に発展したと報道されている。私はその職員の置かれていた状況をすべて把握しているわけではないが、「お金がほしい」という動機があったことは容易に想像できる。

もちろん、どんな事情があったにせよ不正受給は許されることではなく逮捕された職員は法に基づいて裁きを受けるべきだ。ただ、事件の背景を正しく理解しなければ、また同じことが起きてしまうだろう。